ブレインパッドでは、クライアントに価値提供するプロジェクトはもちろんのこと、プロジェクト外にて先端的な取り組みを学ぶ姿勢も大切にしています。その一環として、今回は東京女子医科大学 先端生命医科学研究所 先端工学外科学分野(Faculty of Advanced TechnoSurgery、通称FATS)を見学してきたので、その様子をお伝えします。
はじめに:FATS概要
FATSはIoTを駆使したスマート手術室(SCOT)をはじめ、5Gを駆使した移動型治療ユニット、リアルタイムナビゲーションシステム、医療ロボットの研究開発により、未来予測のできる情報誘導手術と精密誘導治療の実現を目指している、2001年に創設された研究組織です。
研究室メンバーには、医療従事者(医師、歯科医師、薬剤師、獣医師、看護師等)や工学者(ロボット工学、情報工学等)が在籍しており、社会人大学院生も交えて医理工融合・産官学連携に取り組んでいます。
https://www.twmu.ac.jp/ABMES/FATS/aboutus/
ディスカッション
今回お話を伺ったのは、北原秀治様です。
東京女子医科大学特任准教授(先端工学外科学)。博士(医学)。専門は基礎医学(解剖学、腫瘍病理学)、公共政策学、医療・介護のデジタル化。
北原様
「本日はお越しいただき、ありがとうございます。まず、医療分野におけるデータ活用の現状について、簡単にお伝えできればと思います。最新の研究では、デジタル/AI活用の進歩により、高度な医療が提供されています。例えば、以下のようなものです。
- 手術における医師の判断がばらついたときに下される高度な最終判断を機械学習によって可能にしたAI
- 患者の表情や頷きの回数から行う診察の評価
また、早期発見が難しいとされるすい臓がんに対して、複数のデータによる予測や超音波検査を組み合わせることで、大学病院などの大きな病院だけでなく、開業医単位でもステージ1での発見を可能にする取り組み(https://www.city.yokohama.lg.jp/kenko-iryo-fukushi/kenko-iryo/iryo/gan/taisaku/20230427.html)
もあります。」
「先進的な取り組みもある一方、医療分野におけるデータ活用はまだまだ進んでおらず、申し送りの作業に膨大な時間を費やしているという現状があります。そこで、手術記録(オペレコ)や投薬記録、紹介/転院/看護のサマリー作成を電子カルテから自動で作成するメディカルスクライブや、チャットボットの解析による自動返信技術の向上といった作業効率化も求められています。また、医療分野にとどまらず、リハビリや介護分野でのデジタル/データ活用も注目され始めており、VRを活用したリハビリクリニック(https://www.medivr.jp/)も出てきています。」
上記のお話を伺って、臨床/診断領域におけるAI活用は、今後も精力的な取り組みが見込まれる中、私たちとしても現場への適応までを見据えた取り組みを推進する必要があると考えました。また、作業療法や介護分野は、まだまだデジタル化自体が進んでいないことに加え、予算が限られる分野ではありますが、こうした領域にデータサイエンスの力を活かしていくことにこそ社会的意義があると感じました。
見学
ディスカッション後には、研究所の見学をさせていただきました。
スマート治療室(SCOT®:Smart Cyber Operating Theater)です。
これまでの治療室では、医療機器間のデータ連携はほとんどないのが一般的でした。一方スマート治療室では、IoTを活用して医療機器のデータを統合し、手術室内部の情報を一つの画面に表示します。これにより、執刀医だけでなく、戦略デスクと呼ばれるモニターを駆使し、手術室外にいるスタッフも手術の進行や患者の状況をリアルタイムで把握でき、手術室内外でコミュニケーションをとりながら治療を進めることができます。
また、複数の機器の時系列が合った治療情報を蓄積するため、どの時点でどのような施術が行われていたかを正確に知ることができ、振り返りや次の手術への活用、若手医師への教育などに活かすことができます。治療選択肢ごとにリスクや生存率などを算出してナビゲーションをするAIの開発にも活用が進んでいます。
また、同じ室内にはMRIが設置されていました。通常の筒状のMRIではなく横が開いているオープン型MRIです。圧迫感が少なく音も静かな設計なので、患者の精神的負担を軽減することができます。同じ室内にあるため術中MRIが可能であり、その際は手術台が自動で動いて表示されるガイドラインにピタリと合います。これによりMRI検査前後で腫瘍の位置を合わせ、より正確に腫瘍を把握しながら手術を行うことができます。このように、IoTやデジタルの力は治療の高度化や効率化をもたらし、ひいては患者のQOLの向上にも寄与しています。
さらに私は、手術台の機械に触れさせていただきました。目の前の画面には、上部のロボット顕微鏡によって拡大された手元の映像が映されており、サングラスをかけることで立体的に見ることができます。今回は脳外科手術での模型が置いてあり、より実際に近い手術の雰囲気を味わうことができました。腕は細かい作業でも震えないよう、軽い力で動かせる固定台に乗せることができ、長時間の手術でも疲れないようにするためか、想像以上にイスの座り心地が良かったです。このように医師の負担を軽減するための設備も整備されていました。
この治療室は、移動型スマート治療室(モバイルSCOT®)としても展開されています。5G回線を活用し、移動先と病院のデータのやり取りをリアルタイムで行うことができるので、災害時や地球外での活躍にも期待が高まっています。
手術室外の技術も見学させていただきました。こちらは内閣府のムーンショット事業(https://www.jst.go.jp/moonshot/)目標3で開発されているヒューマノイドロボット「AIREC」(https://airec-waseda.jp/)です。従来のロボットは硬くて重いため、日常生活において人の支援を行うには安全性の問題がありました。一方AIRECは、人の全身を支えられるパワーを有しつつも衝突しても人間に危害が加わらない受動柔軟性、油剤/冷却剤などの体液を身体に循環させる自己修復・維持機能を備えています。人と共存可能なロボットとして開発されていて、一般生活だけでなく、医療・看護・介護の分野での応用にも期待が高まっています。従来ではデータが収集されにくかった、患者と医療従事者という1対1の人間同士のやり取りについて、AIRECが代替することで一部データが収集可能になると考えられます。
当社としては、こうした技術の発展による新たなデータの活用余地を模索していきたいです。
おわりに
今回は、東京女子医科大学 先端生命医科学研究所 FATS (Faculty of Advanced Techno Surgery、先端工学外科分野)にて、医療分野におけるデータ活用と医療現場の先端技術を見学させていただきました。ブレインパッドでは、世の中の取り組みを知ることは、新たなデータ活用の機会を見出す貴重な場になると信じて、とても大切にしています。また、外部の情報を得るだけでなく、大学などの教育/研究機関と協力してAIやデータ活用を通じた新たな価値を模索する取り組みも増やしていきたいと考えています。
北原様、お忙しいところ貴重なお時間と機会をいただき、ありがとうございました!
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