創発教室 楽屋裏話 禅と日本的霊性 講師: 松山大耕氏

ブレインパッドは、2023年11月1日に、新人事戦略ストーリー「BrainPad HR Synapse Initiative」を発表しました。本記事では、この戦略の特長の一つである独自の研修体系の中から、研修の目玉の一つである「創発教室」の講師陣とのアフタートークをお届けしてまいります。今回の講師は、妙心寺退蔵院副住職の松山 大耕さんです。※本インタビューは、2024年6月に取材を行っており、所属・肩書き等は取材当時のものとなります。

松山 大耕
妙心寺退蔵院副住職
1978年京都市生まれ。2003年東京大学大学院 農学生命科学研究科修了。埼玉県新座市・平林寺にて3年半の修行生活を送った後、2007年より退蔵院副住職。日本文化の発信・交流が高く評価され、2009年観光庁Visit Japan大使に任命される。2016年『日経ビジネス』誌の「次代を創る100人」に選出され、同年より「日米リーダーシッププログラム」フェローに就任。2018年より米・スタンフォード大客員講師。2019年文化庁長官表彰(文化庁)、重光賞(ボストン日本協会)受賞。現在、京都観光大使、京都市教育委員、株式会社ブイキューブ社外取締役、株式会社ESA監査役。
2011年には、日本の禅宗を代表してヴァチカンで前ローマ教皇に謁見、2014年には日本の若手宗教家を代表してダライ・ラマ14世と会談し、世界のさまざまな宗教家・リーダーと交流。また、世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)に出席するなど、世界各国で宗教の垣根を超えて活動中。

「シンプル」で「実践と体験を重んじる」禅の哲学

西田
大耕さん、本日は素晴らしい講義をありがとうございました。講義後、受講者から本質的な質問がたくさん出ていたのが印象的でした。大耕さんは若い頃から、ヤンググローバルリーダーとしてダボス会議に出席されるなど、日本に閉じず、幅広い経験をされていらっしゃいますよね。毎年世界各地からリーダーたちが京都に集まり合宿するのも、欧米の二元論から成り立つ社会に限界を感じて、何かしらの打開策を日本のあり方に求めている、そのことのあらわれではないかというお言葉があったかと思います。日本は今後、グローバルのリーダーを含めて人材を育成する場になり得るのではないかと思いますが、大耕さんはどのように考えていますか?

松山さん
そういう側面はあると思います。日本が世界一の分野と考えると、エンジニアリングも難しいし、自動車もいつまであるかわからない。ナンバーワンは難しいですが、オンリーワンの分野はたくさんあります。皆さんはなぜ京都に来るのか。地政学的に日本に来やすいこともありますが、皆さん「思想がある」とおっしゃいます。

西田
思想があるというのは?

松山さん
たとえば、講演で申し上げたような「我思う、ゆえに我なし」。そんなことを言える場所は世界中にないと思うんですよね。そういった西洋的なものとは異なる哲学、ものの見方を求めておられる知的レベルが高い人は、少なからずおられると思います。

西田
講義の冒頭の「禅とは」というお話の中で、“禅はシンプルである”というお話がありました。これはやはり「よく生きる」ことにつながっていく。まさに哲学だと思いました。一方で「実践と体験を重んじる」のが禅の二つ目の本質だという点で、思考や言語を超えるという意味においては、禅の考え方は哲学を超えた存在であるといえるのでしょうか。

松山さん
机上の空論にならないというのは非常に重要です。いくら頭の中で考えていても、実践を伴っていないと意味がない。そういった意味で、西田幾多郎もずっと禅をやっていたわけで、いわゆる学問と実践を行っていました。仏教でも「三慧」という教えがあります。三つの知恵という意味ですが「聞思修」という言葉があります。「聞」は聞慧といって、セオリーを学ぶ学問ですね。「思」は思う、考える、イマジンです。リフレクションの時間を持ちなさいと。最後は実践を意味する「修慧」、プラクティスです。これはどれが欠けても駄目だという教えがあるんです。そういう意味では、リフレクションし、実際の生活の中に落とし込めるか。そこが重要なポイントだと思います。

西田
以前、大耕さんに話をお聞きした時に、スタンフォード大学で教えておられることに関連して、「エフェクチュエーション」という概念を教えていただきました。その際、“超イケてる経営者は深く内省している“というお話がありました。

松山さん
エフェクチュエーションは、世の中に認知されてきていますね。たとえばリフレクションの時間を持つのであれば、山の中や海辺で波の音を聞きながらでもできます。ランニングしながら、お風呂入りながらでも。仏教的にいうと「禅定」というんですが、いわゆるサイレンス・イン・ディシプリン。規律のある中の静寂。これは非常に重要だと思います。ただ単に静かであるとか、ただ単に自分と向き合っているのではなく、規律のある静寂の中での向き合う。これでかなり違ってくると思います。

西田
規律のあることで、どんな作用があるのでしょうか。

松山さん
たとえば海辺でボーッと考えて、気持ちいいなと考えたら寝てしまうとか、考えなくてもいいことを考えるとか、よくありますよね。走ってても、最初は内省してるつもりでも、息がハアハアとなってしんどくなってきて、結局走っているだけだとか。規律のある静寂にいると、緊張感を持って、内省の状態が保たれやすくなると思います。

グローバルリーダーが京都を繰り返し訪れる理由

西田
日本は四季がハッキリしていて、美しい自然があり、一次産業があって、地方に行けば自然の中で命を体感できる環境がある。先ほどお話しいただいた「我思う、ゆえに我なし」という感覚を外国の方に持っていただくための条件が揃っているように思えます。

松山さん
環境は非常に重要だと思います。ここ10年くらい、アジアのイスラム教の国のイスラム神学校のリーダーの皆さんとの交流事業をやっているんですよ。インドネシア、マレーシア、フィリピンのミンダナオでやっていまして、インドネシアの先生方を京都にお連れして比叡山に行ったことがあります。霧の立ち込める、神秘的な雰囲気のときに、比叡山の森の中を一緒に歩いたんですよ。そしたら、インドネシアのイスラム教のとある先生が「ここには神さまがいっぱいいるといわれても不思議ではない空気が流れている」と言ったんです。一神教の、しかもイスラム神学校の先生が、多神教といわれても不思議ではない空気が流れていると。これは、まさに場の力だと思うんですね。

たとえば、海外の方をお連れしたら茶室に連れていくんですが、扉を全部開け放って、もみじが見えて、この中で一緒にお茶飲むと、みんなが完全に一体感を感じますね。一つの空間の中に溶け込んでいる。そういう庭のつくりもそうですし、家屋のつくりもそうです。

西田
先ほど、知的レベルが高い人ほど、現状の仕組みの破綻という側面から、日本における禅的なものへ可能性を感じる人が多いのではという発言がありましたが、少しずつ広まって変わっていく兆しはあるんでしょうか。

松山さん
今“超VIP”ほど私たちのもとに来ているんです。単に観光に来るのではなく、何かを求めて来ている。しかもリピートするんですよね。それは私たちが世界に貢献できる証明になっていると思います。私は京都観光大使もさせていただいていますが、21世紀の旅人は不幸だといわれています。つまり、何でも調べることができる。京都だったら金閣寺がある。清水寺には清水の舞台がある。食事でもこの店に料亭に行ってこれを食べたい、ラーメンや寿司はこの店で食べたい。要は想像していたものを食べて、想定していた景色を見て、みんな帰っていくんです。

そんな中で、本当の旅の意味が何かといったら、やっぱり人なんですよね。もっとも予想外なのは人なんですよ。誰に会うか、誰と一緒に旅するかという、そこがおそらく一番の今の旅の醍醐味です。ですから思想や哲学は、人がいないと伝わらない。そういった意味で、皆さんが、ここには何かあるということは気づいておられるのではないでしょうか。

西田
私は前職でAPU(立命館アジア太平洋大学)の元学長だった出口さんとご一緒させていただいたのですが、出口さんはいつも学びは「人、本、旅」からしかない、とおっしゃっていました。人から学ぶ、本から学ぶ、旅から学ぶというのは、まさにそうなんだと思います。冒頭、大耕さんにも触れていただきましたが、ブレインパッドは哲学を学ぶことに力を入れています。自分の頭で考えることがより求められる時代となり、ビジネスパーソンにとっても、哲学的思考力が益々重要になると考えているからです。哲学的思考力の範疇で、禅という「より大きな存在」がますますフィーチャーされています。先ほどVIPが京都にたくさん訪れているという点も含めて、まさにやっている方向性が間違っていなかったかと考えております。

AI全盛時代に求められる人間の“判断”

松山さん
先日、GoogleのAIのトップの方もいらっしゃいました。その方はエンジニアというよりも哲学者なんですよね。最新の人工知能を取り扱っている人は皆さんおっしゃいますけど、AIというのは過去のデータを集めるから、今までの知識に関しては非常に強い。しかし、未来を予測するのは大変難しい。もう一つは、ジャッジメントができない。情報は集まるし、材料はあるけれど、それをどうするかというジャッジメントはAIにはできない。まさにそこが哲学だと思うんですね。どのようにその物事を見ていくか、判断するか。

ですから、もちろんブレインパッドの皆さんはそういうAIを使ったお仕事をされているわけですが、だからこそどうジャッジしていくかが求められる。新しい技術には必ず新しい倫理的な問題が生まれるので、それに対して多角的な視野を持っておく。そういう効果はあると思います。データサイエンスを生業にしているブレインパッドで講義する際に意識したことというのは、まさにそういう点かなと思って話しておりました。

西田
最後に、この大耕さんの講義ならびにアフタートークを読んでくれている悩めるビジネスパーソンに、大耕さんから一言いただけますと幸いです。

松山さん
どうしても今は情報化社会ですし、しかもデータを扱う仕事をされているので、情報を集めて満足してしまいがちだと思うんですが、自分自身の五感を使うこと自体が、判断軸を持つことにもつながるし、本当に世の中にアピールするものを生む力につながると思います。

マクドナルドの現社長の日色さんという方がいらっしゃいます。日色さんとお話しした際、「消費者の皆さんにどんな商品があればもっとマクドナルドに来ますか?」と質問をして皆さんからのデータを取ると、毎回必ず1番になるのは、もっと健康的なメニューを作ってほしいという回答がくるそうです。試しにそういうものをみんな工夫して作ってみたものの、何度やっても売れない。逆に“サムライマック”など、これは身体に悪いだろうというメニューをつくると飛ぶように売れる。みんな言ってることとやってることも違うし、データが嘘をつくこともある。そういう中で、本当に自分自身の感性を研ぎ澄ますこと。データを扱う仕事だからこそ、私は非常に重要だと思いますね。

西田
自分の価値基準、判断基軸をどのように持つのか、常に考え続けることが大事ということですね。大耕さん、ありがとうございました。

松山さん
こちらこそ、ありがとうございました。

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最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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