クロストーク 1on1から考える VUCAの時代を生き抜く 理系思考を持った経営人材とは

ブレインパッドは、2023年11月1日に、新人事戦略ストーリー「BrainPad HR Synapse Initiative」を発表しました。本記事では、新人事戦略の重要要素の一つである「共感的なコミュニケーションの実現」に向けて当社が導入・推進する「1on1」をテーマに、「1on1」の第一人者である本間浩輔氏とCHRO西田のクロストークをお送りします。

ブレインパッドは、当社グループの中期経営計画を人的資本の側面から強力に推進する新人事戦略ストーリー「BrainPad HR Synapse Initiative」を発表しました。
新人事戦略ストーリーでは、データ・テクノロジーと哲学的思考力を融合し、「理系思考を持った経営人材の輩出企業」となることを目指しています。その施策の一つとして、当社は、共感的なコミュニケーションの実現に向けて、「1on1」を導入、推進しています。この1on1の活用効果をさらに高めていくために、ヤフー株式会社(現・LINEヤフー株式会社)で1on1を推進し、社外に向けても啓発されている本間浩輔さんを研修講師としてお迎えして全社的な研修を行いました。
本記事では、これからの時代の経営人材について、本間さんと当社CHRO西田によるクロストークをお届けいたします。

ー講師プロフィール
本間浩輔
株式会社パーソル総合研究所 社外取締役会長
法政大学経営大学院イノベーション・マネジメント研究科 客員教授
立教大学大学院経営学専攻リーダーシップ開発コース 客員教授
朝日新聞社 社外取締役

1968年神奈川県生まれ。早稲田大学卒業後、野村総合研究所に入社。コンサルタントを経て、スポーツナビ(現ワイズ・スポーツ)の創業に参画。同社がヤフーに傘下入りした後は、ヤフースポーツのプロデューサー等を担当。2012年社長室ピープル・デベロップメント本部長。執行役員。上級執行役員(人事)、常務執行役員(コーポレート統括)、Zホールディングス株式会社執行役員を経て、2021年より現職。著書に『1on1ミーティング 「対話の質」が組織の強さを決める』(吉澤幸太氏との共著、ダイヤモンド社)『ヤフーの1on1 部下を成長させるコミュニケーションの技法』(ダイヤモンド社)、『会社の中はジレンマだらけ 現場マネジャー「決断」のトレーニング』(中原淳・立教大学教授との共著。光文社新書)、『残業の9割はいらない ヤフーが実践する幸せな働き方』(光文社新書)がある。

1on1は、目的に向けて、「フィードバック」でよくしていくべき

西田
今回、1on1研修の講師をして頂き、ありがとうございました。
ブレインパッドでは、新しい人事戦略”シナプス”で掲げる5つのテーマの中の1つに「共感的コミュニケーションの実現」を掲げています。お客様、上司部下、他部署など、自分と異なる立場や背景を持った人とフラットにコミュニケーションが取れるようになることを目指しています。そのコミュニケーションスタイルの具体的なベースとして、1on1を位置づけています。そういった意味でも、今回は肝入りの研修でしたし、本間さんの研修内容は、大変勉強になりました。

本間さん
ありがとうございました。そう言ってもらえると、研修をやった甲斐があります。

西田
本間さんは、ヤフーで1on1を導入され、その経験を書籍として出されるなど、ヤフーのみならず、社会に1on1を広めていく活動をされています。今では、1on1は、一般にもかなり浸透し、実践する企業も多くなってきたように思いますが、いかがでしょうか?

本間さん
そうですね。1on1が広がったのは、ヤフーが導入したからというよりも、人を育てることや上司と部下の関係について、多くの組織が疑問や違和感を持っていたからだと感じています。また、コロナ禍で上司も部下もお互い関係構築に悩みを抱えることが増えてきたこともあり、自然とスムーズに広まったのではないでしょうか。

西田
浸透が進んできて、単に1on1を実施するだけでなく、その活用を次のフェーズに進める組織も出てくるのではないかと思いますが、その上で感じる課題はありますか?

本間さん
自分たちの会社の成長に、利益を稼ぐために、1on1をどのように使っていくかを考えるフェーズにきたと思っています。例えば、離職率を下げたいのか、イノベーションを起こしたいのか。そういった目的に即して1on1を行っていく必要があると思っています。

そのような中で、課題だと感じるのが、1on1を受ける側であるフォロワーに対する教育不足です。一般的に、1on1は、やる側である上司側の研修を行うことが多いですよね。そして、研修を受けた上司から「今日、何話そうか?」と、いきなり聞かれるわけですが、部下は部下で「え?何を話そう・・・」と戸惑います。

西田
部下側が、1on1の場をどのように活用していいか分からないということですね。

本間さん
そうです。部下は、1on1の30分を単なる雑談の場などとしてやり過ごしてしまうことが、しばしば見受けられます。しかし、ようやく最近見えてきたのは、1on1をよい場にするには、上司と部下の相互作用が大切だということなんです。
この相互作用を引き出していくには、部下側も、成長するためなり、キャリアを築いていくためなり、価値を発揮し、結果、給料を上げていくためなりに、勇気を持って1on1の場を使っていく必要があります。

西田
1on1を上手に活用できている人は、目的やシチュエーションによって、役を演じるのがうまいなと感じます。状況に応じて1on1を使っていくために、何かコツはありますか?

本間さん
慣れとフィードバックだと思います。スポーツをよく例に出しますが、サッカーであれば、蹴ったボールの行方を見て、次はどのような蹴り方をしようかと試行錯誤していきます。つまり、ボールの行方というフィードバックを見ながら、蹴り方を変えていきます。ですが、1on1・コミュニケーションとなると、高圧的な話し方をしているよとか、伝わっていないよとか、そういったフィードバックは、もらえないことが多いですよね。フィードバックを介して、自分のコミュニケーションの癖を認識して、変えていくことで、目的に対する結果が変わってくると思います。

西田
俳優が名優の演技を見たり、カメラチェックで確認して、修正し、演じるというのと似ていますね。

本間さん
そうそう。実際に1on1の様子を撮影しておいて、お互いの立場から、今の伝え方はカチンときたなとか、フィードバックをしあってもいいかもしれません。それを見たうえで、また1on1をやってみてと何度もやるのが大事なんですよね。

その点、ブレインパッドは、部下向けの研修も導入しましたよね。大きな会社だと、部下に対しては、eラーニングを見させて終わりなど、簡易な形になってしまいがちです。ブレインパッドのように部下向けの研修も導入すれば、上長にどのような研修をしているのかを共有できますし、1on1を受ける心構えも伝えることができます。目的に向けてお互いにフィードバックをしあえるようになると、さらに効果が生まれてくると思いますよ。

これからの時代、経営者には、理系的思考が必須

西田
1on1研修を介して、いろいろな人や組織に向き合うことが多いと思いますが、本間さんが感じる潮流のようなものはありますか?

本間さん
昭和的な時代は、ベストプラクティスをいかに真似るかであったり、KPI達成を目指すといった正解に向けて動くのがよい時代だったと思います。

しかし、昨今、テクノロジーの進化が著しく激しく、速くなっています。そういった時代においては、テクノロジーが進化した世界、つまり、AIやVRが普及した世界をある程度、仮説ベースで想定し、自分たちがどこにポジショニングしていくかを考えることが重要になってきたと思います。

西田
テクノロジーの進化が速すぎて、社会や会社のインフラが追いついていないですよね。

本間さん
インターネットが普及し始めた1980年頃のテクノロジー変化は今と比べると断然遅かった。我々は、本で、インターネットを勉強したくらいですからね。そういった時代を経て、これからは、インターネットは当たり前で、スマートフォンなどのテクノロジーがさらに進んでいくでしょう。こういったテクノロジー革新を自社の経営、ビジネス、業務に使っていけないと、どんどんしんどくなるでしょうね。

西田
昭和を代表する著名な経営者の方でも、今のテクノロジーに追いついていけないといって引退されることもありますよね。

本間さん
私の周りの経営者達も同じです。彼らが引退を決意する一つにテクノロジーを使ったビジネスで成功できないということがあります。ビジネスを推進している最中でさえ、周囲から見ると、テクノロジーが分かってないなという感覚を持たれてしまう。テクノロジー進化についていけなくなった瞬間は、経営者を引退する瞬間だとも言えます。

西田
経営者には、これからの時代、ITリテラシーを高めることと、物事を理系思考で考える能力が必要になるということですね。

本間さん
そうですね。理系思考と言えば、データを扱えることも重要です。当社の経営陣の一人は、データを経営会議に持ち込んで議論を行います。データを根拠にこうではないかと示されては、ほかの経験豊富な経営陣が、過去の成功体験や他社の成功事例を持ち出してきたとしても、ぐうの音も出ません。彼は、「データは私のボスである。データはお客様そのものである」とよくいっています。このように、データとテクノロジーを扱えることは、経営者に必須でしょうね。だけど、それをできる経営者は、日本には、ほとんどいません。これはどうにかしないといけない。

西田
ブレインパッドでは、データとテクノロジーが扱える理系思考を持った経営者の輩出に挑戦しようと思っているんです。日本の国際競争力を底上げするには、IT活用の改善が不可欠であり、そのためは理系思考を持った経営人材を増やす必要があります。ブレインパッドには、約20年間で1,400社を超えるクライアントに対してデータ活用を支援してきたノウハウや経験の蓄積があります。そこにデータサイエンティストをはじめとした優秀な理系思考を持った人材が集っています。これからの資産を活かして世の中に経営人材を輩出していくことが、私の役割だと思っています。

本間さん
いいですね。単なる理系でよいというわけはなく、経営人材であることが、重要だと思います。経営においては、どのような人材で経営チームを組んでいくか、そして、経営会議で、どのような会話がされるかは、とても重要です。それに対して、単に理系です、データいじれます、テクノロジー分かります、だけでは、その輪には入れません。なので、データサイエンスを土台にしつつ、自分にはない特徴を持った人材を引き連れてくることができたり、絶対に仲間の悪口を言わないといった経営者としての人格・器が必要です。それには、1on1がベースとなるようなコミュニケーションは必須だと感じます。

そういった意味でも、ブレインパッドに集まるデータやテクノロジーといった理系思考を持った人材が、人とのコミュニケーションを磨いていくことで、経営人材になれるのでしょうね。やはり、MBAコースでデータサイエンスを学ぶというのとは、わけが違うと思います。

将来、BCGやマッキンゼーなどの経営者を輩出しているファームのように、ブレインパッドからプロフェッショナル経営者が生まれてくる。そんなビジョンが見えますね。


哲学的思考を持って、社会とキャリアを切り拓く

西田
ありがとうございます。理系や文系という分類以上に、経営者は、まず人とのコミュニケーションを共感的に取れる人格者であることは必要ですよね。

また、私は、経営人材を育てるために、哲学的思考を身に着けて欲しいと考えています。何が起きるか分からない現代において、自分たちが正しいと思ってきた常識や考え方を再定義する必要があると思っています。例えば、資本主義は常識だと疑いもせずに盲目的に受け入れてきた結果、今の環境破壊につながっているという現実があります。周囲に流されず、当たり前を疑い、自分はどう思うか、どう考えるか、良質な問いを立てて、自分の頭で、他人の頭で考えてみる、つまり、哲学的思考を育てていくべきだと思うんです。

本間さん
なるほど。哲学的思考は、今までの事象でも感じることがありますね。例えば、2010年代に他社に先駆けて、よりエコな電気自動車を開発したメーカーがありました。このタイミングで、リリースするには、1990年代には、電気自動車の研究をスタートしていたはずです。その当時、環境破壊に対して、誰も疑問を持たなかったと思います。ですが、それを哲学的思考を用いて、人類の進化や未来の社会を考えたときに、本当にこのままでいいのか?と疑問を持ち、どんな車が必要かを予想した人がいたからこそ、電気自動車が時代に先駆けて生まれたのだと思います。むしろ、こういった思考を持って、経営やビジネスをしていかないと、周回遅れになり、取り返しのつかないことになりますよね。

西田
そうですね。哲学的思考の土台を築いていくことは、経営やビジネスに置ける思考の質を高めることはもちろん、生き方や働き方にまでつながっているのではないかと思っています。

本間さん
グローバルで有名なあるテクノロジー企業では、優秀なエンジニア達が、社外に流出していっているという現状があります。離職した彼らがいうのは、テクノロジーを邪悪な目的に使いたくないということ。つまり、倫理や真善美、つまり哲学がないと、どれだけ有名で名を馳せた企業でも、10~20年でだらだらと崩れてしまう。自身のキャリアを選ぶ時でさえ、哲学が大切だと言えると思います。

西田
そういった意味でも、今までのように一部の人だけが哲学的思考を持つのではなく、みんなが哲学的思考を持つことを求められる「一億総哲学者の時代」になっていくと思います。

本間さん
私も、個人的に、哲学の勉強会をやっていますが、とても難解です・・・(笑)
ですが、正解が導けそうで分からない感覚を、経営者はマネジメントをやっていると持ちます。そういった感覚を、多くの人に、持ってほしいですね。

西田
そうですね。理系思考を持った経営人材を輩出していくために、これからも、哲学的思考、共感的コミュニケーションを高めることに、お力をお借りできれば幸いです。今日は、ありがとうございました!

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www.brainpad.co.jp
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