2018年度人工知能学会全国大会参加レポート②~工業における機械学習の最近~

鹿児島県で、6月5日~6月8日の4日間開催された「2018年度人工知能学会全国大会」の現地レポートをお送りします!現地レポートは、複数回お届けする予定です。今回は、その第2回です!


こんにちは、アナリティクスサービス部の茂木です。

6/5(火)~6/8(金)に鹿児島で開催された「2018年度人工知能学会全国大会(JSAI)」の参加レポート2日目をお届けします!

以下、参加レポートの投稿予定テーマです。

投稿予定 テーマ(予定)
第1回 さまざまな業界におけるAI活用事例
第2回(本記事) 工業における機械学習の最近
第3回 技術的観点による論文ピックアップ
第4回 これからの人工知能。これからの人工知能社会。


当社ではさまざまな業界のデータを取り扱っていますが、なかでも私はモノづくりの過程で生成されるデータに強い興味を持っています。焦げたオイルの匂いのする工作機械の動作記録や、見上げるほど巨大な工業プラントから時々刻々と吐き出されるプラント内の状態の記録などを見るとき、私はワクワクして止みません。

そこで、今回は、近年機械学習の利活用が進む、工業におけるデータ分析の話をお届けしたいと思います。最近の応用事例にも簡単に触れながら、本大会の関連するセッションを2つピックアップしてご紹介します。

■工業における機械学習の広がり

近年、データ蓄積基盤の整備に伴い、工場内の工作機器やロボットなどのさまざまな機器から、リアルタイムで取得した情報や作業者の操作情報などが基盤に蓄積されつつあります*1

こうしたデータを活用することで、さまざまな現場の課題を解決しようという試みがなされています。たとえば、稼働中の工作機器やロボットなどに異常が発生した場合や製造ラインに不良品が混入していた場合、これをすぐさま検知するタスクとして異常検知があります。

異常検知では、正常対象のデータを大量に集めることで正常の場合のデータをパターン化し、異常な場合のデータのパターンを区別するアプローチがとられます*2。近年では画像データを用いた異常検知が盛んに応用されており、大きな潮流となっています。この盛り上がりを支えているのは、ここ数年においてさまざまな応用分野で発展著しい深層学習技術です。

当社もキユーピー様と協働して、食品製造ラインにおける異物混入や不良品検知のために、深層学習を用いた画像解析の取り組みを実施しています*3。構築した深層学習モデルは、異常物発見の精度向上に貢献しています。

また、作業者の操作ログやさまざまな機器の稼働データなどのプロセス時系列データを活用して、業務の効率化や工場の生産性向上に向けた取り組みなども行われ始めています。たとえば、参考文献*4では、サトウキビからアルコールを抽出する化学プラントを対象に、原料の材質のばらつきに応じて必要となる微妙なプラントの調整方法を、オペレーターの操業ログからデータマイニング技術と機械学習を用いて抽出した研究を紹介しています。

一方、当社における取り組みとしては、三井化学様のバッチプラントを対象にした、プラントの稼働に必要な蒸気量を予測する機械学習モデルを稼働データから構築した事例があります*5。この予測モデルを用いることで、蒸気量のロスや燃料消費を抑えるような操業方法の立案に資すると考えています。

このように、工業の現場では着実に機械学習の利活用が進んできていることがわかります。

■セッションのご紹介

上記で紹介した異常検知とプロセス時系列データの活用との二種の事例に関連して、ここからはJSAI2108で行われた以下2つのセッションをご紹介します。
1つ目は「深層生成モデルによる非正則化異常度を用いた工業製品の異常検知」*6で、深層学習を用いた異常検知の話題です。2つ目は「CADソフトの操作ログ分析による操作スキルの抽出」*7で、プロセス時系列データの活用の話題です。

①深層生成モデルによる非正則化異常度を用いた工業製品の異常検知

異常検知では、正常な場合のデータパターンを学習する必要があることを上で述べました。しかし、データが複雑で正常パターンの分布が単純でない(たとえば多峰分布)と、異常の検出はぐっと難しくなります。たとえば、この発表では上の画像のようにネジの画像を例に実験を行っていましたが、ネジには溝があり平面があり光の反射がありと画像データは比較的複雑なデータとなります。そこで、この研究では非正則化異常度という、データの複雑さに対して頑健な量を定義し、これを用いて異常判定を行う方法を提案しています。これにより、妥当に異常箇所を推定できることを実験で示しています。工業製品の特徴に上手く対処した研究だと思います。

②CADソフトの操作ログ分析による操作スキルの抽出

CADソフトを用いた3Dモデルの作成時間は、同じモデルの作成であっても、CADコマンドの組み合わせ方の違いなどによって作業者ごとに異なるため、これを標準化し作業時間を短縮することが求められています。そこで、ベテラン作業者の意識的・無意識的に行っている効率的な操作のスキルの共有を目的として、彼らの操作ログからデータマイニング技術と機械学習を用いて操作スキルの抽出を試みた、という発表でした。特に、利用した手法が決定木とアソシエーション分析という比較的単純な方法のみを用いていて、むしろ、試行錯誤の結果を受けて、操作ログの分類やコマンドのグループ化など、分析のための改善のサイクルを回すことに尽力したという話が非常に印象的でした。取り組み当初は当たり前の結果しか抽出できなかったものが、上記の改善を繰り返すことで有益な知見を発見することができるようになったというお話でした。我々の普段の分析業務に近く、非常に身につまされるご発表でした。

■むすび

以上、簡単に最近の工業分野での機械学習の利活用についてご紹介いたしました。今回ご紹介した事例は、JSAI2018で発表された最新の応用事例2例です。

2つの発表を通じて、工業での機械学習の利活用で最も重要だと感じたことは「現場の声」でした。深層生成モデルの取り組みでは非常に高い精度で異常を検出できる一方で、現場が異常だと見なさない僅かなキズをも検出してしまっていました。異常と正常の境を決めるのは難しいことですが、現場の方と協働して対処していく他ない課題です。また、CADソフトの取り組みでは、何度も結果を現場の方とディスカッションすることで改善を繰り返していったとのことです。業務についてもっとも詳しいのは彼ら現場の人間なわけですから、我々のような分析の人間はデータのみを見て満足するのではなく、彼らの話こそよく聞く必要があると改めて感じました。このことを肝に銘じて、今後も分析業務に取り組んでいきたいと思います。


次回は「技術的観点による論文ピックアップ」をテーマにお届けします。是非楽しみにしてください!


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www.brainpad.co.jp

*1:榊原伸介. "ロボット技術, IoT および AI の活用による製造業の競争力強化." 精密工学会誌 83.1 (2017): 30-35. (https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjspe/83/1/83_30/_pdf/-char/ja 2018/6/xx確認)

*2:鈴木英明, 内山宏樹, and 湯田晋也. "データマイニングによる異常検知技術." オペレーションズ・リサーチ 経営の科学 57.9 (2012): 506-511.(http://www.orsj.or.jp/archive2/or57-09/or57_9_506.pdf 2018/6/13確認)

*3:ブレインパッド、キユーピーの食品工場における不良品の検知をディープラーニングによる画像解析で支援|株式会社ブレインパッド(BrainPad Inc.) 2016年10月25日発表

*4:寺野隆雄. "人工知能技術を使いこなすには (特集 経営工学における AI 技術の利活用)." 経営システム 27.4 (2018): 207-212.

*5:ブレインパッド、三井化学のバッチプラントにおける近未来の蒸気量需要を予測 - 機械学習を活用し、工場の省エネルギー化と生産効率の最適化に貢献 -|株式会社ブレインパッド(BrainPad Inc.) 2017年06月13日発表

*6:立花 亮介, 松原 崇, 上原 邦昭. "深層生成モデルによる非正則化異常度を用いた工業製品の異常検知". 第32回人工知能学会全国大会, 2018. (https://confit.atlas.jp/guide/event-img/jsai2018/2A1-03/public/pdf?type=in 2018/6/xx確認)

*7:新實 桂佑, 外池 昭雄, 有里 達也. "CADソフトの操作ログ分析による操作スキルの抽出". 第32回人工知能学会全国大会, 2018.( https://confit.atlas.jp/guide/event-img/jsai2018/1P3-05/public/pdf?type=in 2018/6/xx確認)