佐宗邦威氏×紺谷幸弘 クロストーク~会社の理念をいかに自分ごと化するか

ブレインパッドは、企業理念の浸透を目的に、3回にわたる社内ワークショップを実施しました。今回は、このワークショップを設計・運営いただいた株式会社BIOTOPE代表取締役の佐宗邦威氏と、執行役員人事ユニット統括ディレクターの紺谷幸弘による対談をお届けします。

佐宗 邦威氏 紺谷 幸弘
株式会社BIOTOPE代表。多摩美術大学 特任准教授。東京大学法学部卒。イリノイ工科大学デザイン学科修士課程修了。P&Gにてファブリーズ、レノア等のヒット商品のマーケティングを手がけたのち、ジレットのブランドマネージャーを務めた。ヒューマンバリュー社を経て、ソニークリエイティブセンターの新規事業創出プログラムの立ち上げ等に携わったのち、独立。著書に『理念経営2.0 ── 会社の「理想と戦略」をつなぐ7つのステップ』『直感と論理をつなぐ思考法』等。 株式会社ブレインパッド 執行役員 人事ユニット統括ディレクター兼ソリューションユニット副統括ディレクター。2010年に新卒社員としてブレインパッドに入社。ブレインパッドとヤフー(現LINEヤフー)の合弁会社にて、Yahoo! Japanのビッグデータ活用業務に従事。2024年7月より現職。大阪大学人間科学研究科博士前期課程修了。

さまざまな専門家が混在する組織文化

紺谷
今回は3回にわたる長丁場のワークショップをありがとうございました。ブレインパッドの印象はいかがでしたか?

佐宗さん
多面性を持った会社だという印象を受けました。ワークショップを通じて、メンバーそれぞれが幅広い現場に携わっていることを感じましたね。運営を担当したメンバーは若くても情熱を持って理念に向き合おうとしている姿が印象的でした。会社全体としては、データサイエンスやエンジニアリングの専門家も多く在籍しており、表立ってエネルギーを発散するタイプというよりは、内に秘めた熱意を持ちながらも現実的な視点を備えたリアリストが多いチームだと感じました。さまざまな専門性を持った人材が集まった、弁護士事務所のようなプロフェッショナル集団に近いかもしれません。だからこそ、共通言語を持つことは難しいのかなとも感じました。

紺谷
私も新卒でデータサイエンティストとして入社しましたが、当社には外に見せるタイプではなくても、内に燃やせるものを持っている人が多いと感じています。「なぜやらなければいけないのか」という問いに対する感度が高いのが特徴だと思います。

例えば、プロフェッショナルサービスのデータサイエンティストとコンサルタントは同じユニットなので「本質的な価値を提供するために自分たちがどうコミットするのか」との意識は揃っていると思います。一方で、プロフェッショナルサービスとプロダクト事業では視点が違うので、共通言語の部分はどうしても少なくなってしまうかもしれませんね。

佐宗さん
紺谷さんから見て、ブレインパッドらしいところはどんなところですか?

紺谷
複数の職種が混成のチームになりやすいこともあって、それぞれのプロフェッショナルが持つ文化の特徴が混ざっているところだと思います。「何をやらないといけないのか」「価値になるために何が必要か」を考えるスコープが広い人が多く、かつ、考えられる人が評価されています。

理念を自分ごと化する

紺谷
今回のワークショップを設計する際に、どのような点を意識されましたか?

佐宗さん
パーパス・ビジョン・ミッションが視座の高いところから設定されているので、現場の方がいかに自分ごと化できるか、経営陣と現場の方が見ている視点のギャップをどう埋めるのかがチャレンジでした。

例えば、ミッションの「技術と人材のサプライチェーンを再構築し、国際競争力のある豊かな日本の再生に貢献する」は、日本の産業への貢献という視座で考えられています。しかし「日本社会のためにどうするか」を、新卒入社の社員が想像できるのか。日常的にみんなが考えるようなことではありませんよね。

経営陣の視座に合わせるよりも、経営陣が考えた問いをなぞって、自分の経験と照らし合わせながら答えを出す。そして、経営陣が作ったミッションとの差分を感じられたら成功なのかな?と考えながら、打ち合わせを進めていきました。

紺谷
ワークショップに参加する前は、そこまで現場のリーダーと自分の視点は変わらないと思っていましたが、思っていた以上に違いを感じて興味深かったです。リーダーたちは抽象的に考える人が多いと思っていましたが、現場視点が強く、オペレーショナルな視点や普段の実務に関する課題を抱いていたのは印象的でしたね。私が持っていない視点もありましたし、現場で向き合っているからこその気づきの深さがありました。

佐宗さん
それはポジティブな発見ですよね。視点の違いがあることで、お互いから学ぶことも多いと思います。

紺谷
佐宗さんの書籍の中で「企業のライフステージによって理念の持ち方が異なる」と書かれていますよね。同様に、個人のキャリアステージによっても「何のために働くか」という視座は変わってくると思います。つまり、十分な経験を積まないと、働く個人として会社の理念に何を求めるべきかを理解するのは難しいのではないでしょうか。自分の成長や経済的な豊かさを追求するフェーズがある中で、中年だと会社と個人のニーズが合致しやすいと思いますが、特に若手のメンバーの皆さんに対してどのくらい理念の浸透を目指すべきなのか、わからなくなったかもしれません。

佐宗さん
若手に対する理念の浸透については、人材像や理念を通じて達成したいことによって、アプローチが変わってくると思います。会社を成長させるためにパーパスやビジョンで引っ張るのか、居心地の良さやエンゲージメントを高めるためなのか、あるいはプロフェッショナルとしてのレベルを上げることが目的なのか。目的によって使い方や若手への浸透度合いも異なってくるでしょう。

今のパーパス・ビジョン・ミッションからは、「プロフェッショナルとしてのレベルを上げてほしい」というメッセージを感じました。経営陣のメッセージとして「ここまでついてきてくれよ」という感じがありましたね。

紺谷
なるほど。佐宗さんの本に出会う前と後では考え方が変わりました。最初は、理念を「自分の生きる意味を重ねられるかどうか」くらいの意味でしか考えていなかったんです。中年の危機に直面して「何のために働いているのか?」と問うとき、ある程度のスキルを身につけ、十分な収入を得られるようになった時点で、「満足した人生だった」と言えるかどうかを判断する基準として理念があると位置づけていました。しかし、今の話を聞いて、組織としてどう理念を活用するかという視点は新たな気づきでした。


理念を「問い」に

佐宗さん
紺谷さんのお話を受けて、私も理念の活用という観点で気づいたことがあります。「理念をこう使いたい」という経営陣からの方針が、まだ示されていないように感じます。だから、経営陣と現場の人が直接対話する場を作ってみたら良いと思います。経営陣も現場の人も一緒にダイアログ(対話)の場を持つことは、お互いの考えを理解し合える機会になります。

個人個人の視座を上げるには、直接議論する中で感じていくのが一番だと思います。今回のワークショップでは経営陣は参加していなかったので、それぞれが自分ごと化をするというゴールを設定しましたが、ブレインパッドという会社の性質を考えると、個人のプロフェッショナルレベルを上げていくことが大事だと感じました。提案力も上がり、結果的にビジョンやパーパスの実現にもつながると思います。

紺谷
当社では「CEOタウンホールミーティング」という場があり、社長の関口が前に立って誰でも参加できる形式になっています。ただ、理念に関する質問が出ても、答えを打ち返してそれで終わり、となるケースが一般的です。そこにフォーカスした場の設計というイメージでしょうか。

佐宗さん
打ち返すというよりも「問いを出していく」といいと思います。例えば「フィッシュボウル」というワークショップ方法があります。中央に経営陣が座り、周りから10人程度が入ってきて話し合う。時には入れ替わり、経営陣の考えを聞きながら、それをもとに自分の考えを話す。こうした形で視座の違いをすり合わせていくワークショップもあります。

理念は「問い」として捉え直すこともできると思っています。例えば「日本のIT業界の構造的課題は何か」「ブレインパッドは何ができるか」といった問いについて、経営陣と社員の間にあたる方々が、自分の経験や見えている景色を話して、それを元に議論するといった方法もあります。社長が話すと視座が高すぎますが、中間層の方々が話すことで、一般社員も「自分ならこう解釈する」と、立体的に考えやすくなります。

今回のワークショップで、パーパスの「持続可能性」について意外と意見が少なかったんですよね。データ活用を広げる上での持続可能な状態とはどういう状態か?を、それぞれの人の視点から議論すると、もう一段前に進めるのかなと思いました。加えて、経営陣自身がより日常的に理念を問いとして投げかける機会を増やすことで、変化が生まれるのではないでしょうか。

紺谷
当社は規模感の割には経営層と一般社員が話す機会は多い方だと思います。全社で月に1回の全体会議があり、各ユニット単位でも月に1回の会議があります。佐宗さんのおっしゃるように、パーパスやビジョンについても触れられると、普段から考える機会が増えていきそうですね。

現場を見る解像度が高いために、視座の高い今の理念にリンクしにくいこと、経営陣からの発信が足りていないことは、今回ワークショップを企画するうえで課題として感じました。次にするべきことは、事業の理念と全体の理念を掛け合わせていくことだと思います。そうすることで、自分の業務の向こうに会社の理念が続いていると感じられるようになると思っています。ぜひ他社の事例について教えていただきたいです。

佐宗さん
ワークショップの初日に共有したメルカリさんは良い事例だと思います。全社で共通のパーパスがありながら、事業会社ごとにミッションをそれぞれ定義しており、ビジョンも1年、3年、10年とロードマップとして作っています。ブレインパッドでは、「IT業界を変える」というのは、具体的にコンサルティングをやっている人はどうするの?など具体的に落とし込むのも良いかもしれません。


日本一の人材輩出企業になるには

紺谷
今後ブレインパッドが日本社会の中でどのような役割を果たしていくべきだと思いますか?

佐宗さん
進化するテクノロジーの専門家集団として、データ活用が進んだ先にどんな社会や会社の形があるのかを示していく役割があると思います。お客さんの課題解決だけでなく、その先にある未来を見せられる存在になり、お客さんにチャレンジを促していくことができれば、社会とブレインパッドがwin-winの関係を築けるのではないでしょうか。

紺谷
私がデータサイエンティスト組織のマネジメントをしていた時に「四方よし」(売り手よし・買い手よし・世間よしの"三方よし"の考え方に、従業員よしを加えたもの)の考え方を大切にしていました。この「四方よし」の考え方の核心には、ビジネスを行う上で社会との調和や健全性が外せない要素であるという認識があります。

その視点から見ると、前CHROの西田さんと関口社長が描いた「日本一の人材開発・人材輩出企業になる」というビジョンは、まさに社会との調和や「世間よし」に資するものだと思っています。

「技術的課題」、「適応課題」とは、ハーバード・ケネディスクールのハイフェッツ上級講師による組織の適応を促すリーダーが遭遇する課題の分類で、前者が「特定の正解が存在し、高い専門性や技術によって解決できるもの」、後者が「問題が複雑で明快な解決策が存在せず、価値観や行動の変革が必要なもの」と大まかには定義されています。

個人的には、昨今の「生成系AI」の登場を印象的な例として「技術的課題」の解消スピードはどんどん上がるのに対し、価値観や目的・利害関係の対立が絡む「適応課題」はずっと残るものだと思っています。むしろ、社会の構成要素が複雑、広範になっていることを踏まえれば、「適応課題」の難易度は増すばかりです。

様々な見方があると思いますが、私が個人的に考えるブレインパッドのサービスの価値の中核は「適応課題」にしっかり向き合うことにあると思っています。卑近な言い方をすれば、「泥臭いことをきちんとやる」と言い換えても良いかもしれません。分析結果やプロダクトと言ったデータ活用ソリューションの導入や運用など、しっかり取り組もうとすると大変だが重要なことから逃げずに取り組んできたからこそ、たくさんの企業様に対して成果を出し切ってこられたのだと考えています。

日進月歩となる技術を適切に用いて「技術的課題」に応えられるだけの実践的スキルを持ちながら、困難な「適応課題」にしっかり向き合おうとする志と資質を備えた人材の成長を支援し、輩出する企業、それが私が思う「人材開発・輩出企業」像であり、これはブレインパッドだけでなく、今後の日本に対する貢献であると考えています。

働く意味を見出す環境づくり

紺谷
話がややずれるかもしれませんが、現代において『絶対的な客観性』はないと思っているんです。物の長さなどの数字上の指標はありますが、どう測るかを決めるのは主観です。そのため、主観的な世界の中で人は生きていかざるを得ない。その中でいかに健全な「勘違い」をしたまま一生を送れるかが重要で、理念はそれに答え得るものだと考えています。

会社として「こういう社会に向かって生きていこう」という考えを共有することは、会社だけでなく個人にとっても価値になる。そのくらい、一人一人に理念が浸透すると良いなと思っていますが、どうすれば実現できるかといつも考えています。

佐宗さん
とても共感します。絶対的な正解はなく、自分がこういう世界のために今生きていて、だからこれをやるという、自分の中でナラティブ(物語)が繋がれば、人は幸せになれると思います。ブレインパッドが、「自分はどうして働いているのか」を哲学できる場所になったら成功なのかなと思います。今回のワークショップは、そのためのベースラインを作る取り組みでした。単なる研修ではなく「こういうことを目指してブレインパッドで働いているんだよね」という会話が飲み会やランチなどの日常の場で出てくるような環境になるといいと思います。

そもそも、この「哲学」の企画が通ったことにも、私は感動しました。理念をきちんと哲学できている会社はそう多くないので、その第一歩を踏み出せたことは素晴らしいと思います。

紺谷
ブレインパッドには考えることが好きなメンバーが多いので、哲学する文化が定着するとさらに面白くなりそうですね。

佐宗さん
今回のワークショップでは哲学するためのハードルを下げるために、いろんな人の視点を知る形式をとりましたが、もっと深く「哲学する」機会も作れると思います。例えば、「持続可能性とは何か」「あなたにとってブレインパッドの理念とは何か」といった答えのない問いについて、オンラインで何十人も聞いている中で議論するといったことも面白いかもしれません。

紺谷
面白そうですね。とても参考になりました。本日はありがとうございました。

ブレインパッドでは新卒採用・中途採用共にまだまだ仲間を募集しています。
ご興味のある方は、是非採用サイトをご覧ください!

www.brainpad.co.jp
www.brainpad.co.jp