デザインとデータサイエンスの意外な共通点: 社会にインパクトを与えるために必要な要素とは?

ブレインパッドは、取締役会長 高橋による「イグニッションナイト」(高橋と繋がりのあるさまざまな分野の著名人に登壇いただく講演会)を開催しています。
今回は、人とデザインの関係性をテーマに、デザインにおける「感情の動き」に焦点を当てる株式会社マネーフォワード執行役員CDO(Chief Design Officer)伊藤セルジオ大輔氏をお迎えし、ブレインパッド執行役員人事担当の紺谷幸弘とアフタートークを行いました。

モノや情報が溢れる時代において、企業がユーザーに選ばれ続けるためには、単なる「機能的価値」だけでなく、「感情に響く価値」が求められるようになっています。デザインとデータサイエンスという異なる領域で活躍する二人が考える、ビジネスパーソンにとって重要な能力について語り合います。

紺谷 幸弘 伊藤セルジオ大輔氏
株式会社ブレインパッド
執行役員
人事ユニット統括ディレクター兼ソリューションユニット副統括ディレクター
株式会社マネーフォワード
執行役員 Chief Design Officer


2010年に新卒社員としてブレインパッドに入社。ブレインパッドとヤフー(現LINEヤフー)の合弁会社にて、Yahoo! Japanのビッグデータ活用業務に従事。2024年7月より現職。大阪大学人間科学研究科博士前期課程修了。





2003年、フリービット株式会社に入社し、CEO室にて広報、ブランディング、事業戦略などを担当。
2006年に同社を退社し渡米。ニューヨークにてアートを学び、フリーランスデザイナーとなる。2010年に帰国し、デザイン事務所である株式会社アンの代表を務める。2013年度グッドデザイン賞受賞。
2019年からは、株式会社マネーフォワードのデザイン戦略グループのリーダーを務める。2020年、CDOに就任。

デザインは「関係性を設計する」こと

紺谷
セルジオさんのお話を聞いて印象に残っている「デザインとは関係性を設計すること」という言葉をテーマに、まずはお話を伺いたいと思っています。

セルジオさん
デザインの本質は関係性をどう設計するかにあります。例えば、デザイナーがポスターを作成する際、クライアントから多くの情報が提供されますが、それをそのまま羅列しただけでは伝わりません。それぞれの情報に優先順位をつけ、メッセージを明確にすることで視覚的にも整理されます。散らばった情報を1つのデザインとして形にする「統合」の作業は、関係性に目を向ける思考力が求められます。

紺谷
たしかに、整理されていない情報に優先順位をつけて形にしていくというのは、どのデザイン分野でも求められるスキルかもしれませんね。

セルジオさん
そうなんです。デザイナーという仕事は、情報収集から始まり、分析的な視点で情報を集め、次に統合的なアプローチに切り替えてデザインに落とし込む、というプロセスを何度も繰り返します。最初は情報を要素として捉えながら、それを全体としてまとめていく「関係性の設計」が、あらゆるデザインにおいて共通するポイントだと思います。私自身はデザインの観点から経営に携わる機会も多いですが、他分野においてもこの考え方は大切にしています。

紺谷
まさに、弊社がデータサイエンティストやエンジニア、コンサルタントに求めている能力と同じです。ビジネス上のインパクトを出すためには、人や情報の関係をどう設計するかが重要ですね。

セルジオさん
デザインは形だけでなく、その背景にある情報や目的との関係性をいかに可視化するかが大事だと思います。情報にだけ目を向けるのでなく、クライアントやデザインに接するユーザーを中心に分析することも欠かせません。

講演中のセルジオ氏と、聴講する当社社員

セルジオ氏が目指す「感情を動かすデザイン」とは

紺谷
情報整理だけでなく、デザインが人の「感情の動き」にも影響を与えるという点もとても興味深いですが、具体的にはどのように「感情の動き」にアプローチしているのでしょうか?

セルジオさん
デザインの本質には感情を動かす要素があります。しかし、そのような動きはKPIでは測れないため、評価しづらい部分でもあります。アンケートを実施すればある程度は測れますが「人の心が動いた」という定性的な部分はデザインにおいて非常に重要です。マネーフォワードの提供するサブスクリプション型のサービスでは特に重要で、ユーザーが心地よく製品を利用し続けるためには、情緒的な価値を提供する必要があります。

紺谷
弊社でもユーザーの行動変化をどう促すかという視点では考えますが「感情」まで踏み込んでいるかと言われると、正直そこまでの解像度は持てていないかもしれません。

セルジオさん
私たちのようにプロダクトを提供する企業にとっては「愛されるかどうか」という側面がユーザーの継続利用に直結します。私は社内で最終的に「感動レベルを目指している」ということを伝えています。プロダクトの快適さに加え、情緒的な価値の提供が私たちのサービスの根幹にあると考えています。

紺谷
感動の提供とは素晴らしい考え方ですね。サービスやプロダクトが「愛される」ことの重要性は理解しているつもりですが、それを実際に社内で実現していくことは難しいと思います。感情にアプローチするデザインがどのように実現されるのか、イメージしにくい部分もありますが…。

セルジオさん
感情の動きは数値化できないため、デザイナーの評価を難しくする原因のひとつです。しかし、マネーフォワードでは「ベストデザイナーアワード」というイベントを開催し、年間を通じて特に感動的なアウトプットを出したデザイナーや、それに繋がる振る舞いをしたデザイナーを表彰する仕組みを取り入れています。

紺谷
評価が難しい要素だからこそ、社内でそれを意識し、理解を深める取り組みをされているんですね。

生成AI時代に必要なのは、明確な「ビジョンを描く力」

紺谷
近年、生成AIの話題が盛り上がっていますね。デザイナーやデータサイエンティストの業務もAIに取って代わられるのではという声も聞きますが、セルジオさんはこの点についてどうお考えですか?

セルジオさん
生成AIの進化は目覚ましいですよね。特に、成果物を生成する力やユーザーリサーチの要約・分析といった作業には非常に有用だと感じています。そのため、私としてはどんどんAIツールの進化を期待しています。AIがある程度のアウトプットを自動で行うことで、今まで時間がかかっていた部分が劇的に効率化されるわけですから。ただし、AIに任せられる部分が増えても、私たちが手をかけるべき「本質的な仕事」は変わらないと思います。

紺谷
それはつまり、表面的な作業はAIに委ねることができても、ビジネスの価値やインパクトに直結する部分は人の力が必要ということでしょうか?

セルジオさん
その通りです。AIはデータや視覚的な要素を整理・生成するのは得意ですが、なぜそのデザインを作るのかという明確なビジョンはAIには生み出せません。特に弊社では、ユーザーの心を動かす感動をつくることがデザインの目的であり、人間だからこそ提供できる価値に当たります。

紺谷
同感です。データサイエンティストもAIによって分析作業の一部を代行できても、クライアントの真の課題を理解したり、ニーズに合わせたアプローチ方法の検討は人間が行うべき本質的な価値ある仕事だと考えています。

セルジオさん
まさにそうです。AIはあくまで「パートナー」であって、すべてを任せる存在ではありません。私たちはAIのアウトプットを基に、ユーザーやクライアントが何を求めているかをさらに掘り下げ、ビジョンを具現化するための最後の一手を見つけていく役割を担っています。


すべてのビジネスパーソンに求められる力とは

紺谷
少し話は変わりますが、セルジオさんはデータサイエンティストという職業についてどのようなイメージを持っておられますか?

セルジオさん
一般的には、データサイエンティストはデータを元に意思決定を支える仕事、と認識されていますよね。私も「データに強い」「ロジカルで分析思考が強い」人というイメージを持っています。ただ、実際に仕事で関わってみると、もっと人間的な部分もあることを実感しています。

紺谷
セルジオさんの認識は解像度が本当に高く驚いています。世間的には「データ分析できる」「コードが書ける」といった、目的達成のためのスキルに卓越した人と認識されています。しかし、実際はデータサイエンティストも技術を持っているだけでは不十分で、ビジネスの現場でインパクトを出せる人材が重宝されています。

セルジオさん
デザイナーも職人気質で、自分のスキルや美意識を追求することに集中しがちですが、それだけでは社会にインパクトは与えられないという壁にぶつかります。デザインスキルはあくまでツールであって、それを駆使する論理的思考力や事業や顧客視点を含めて考える力が必要です。

紺谷
その通りだと思います。また、セルジオさんは現在、デザインから経営へと携わる範囲を広げておられますが、新しい分野の仕事に挑戦するなかで難しいことなどはありますか?

セルジオさん
難しいと感じることも多いですが、デザインと経営には重なる部分が多いとも感じています。特に、中長期的な視点や全体を見渡す視点での意思決定は、デザインでも経営でも重要です。本質的な考え方や思考力はどの分野でも通用するポータブルスキルだと考えています。

紺谷
その通りですね。この考え方は、多くのビジネスパーソンにとって参考になる視点だと思います。これまでのお話を踏まえて、最後にビジネスパーソンに向けたメッセージをいただけますでしょうか。

セルジオさん
私は社内のメンバーに「ビジョンを描くことが大切である」ということを伝えています。デザインは短期的な成果だけでなく、未来に向けた価値を表現することが求められる仕事です。例えば、ユーザーが今以上に求めるものが何かを想像し、そこから逆算してプロダクトを作っていく。これは経営と同じく「先を見て方向を示す」という役割に近いと思います。今は変化が激しい時代なので、個々のビジネスパーソンが型にはまった仕事だけではなく、しっかりと未来を見ながら色んなことにチャレンジすることが重要だと思います。

紺谷
日々の仕事や意思決定にも一貫性が生まれますよね。私も、定期的にビジョンをアップデートしています。特に、新卒や若手社員と話すときにこの視点が大切だと感じています。
また、私たちブレインパッドは、哲学思考を重視していて、哲学を学ぶことで、未来を見ることや、自身の判断軸形成にも役に立つと考えています。社員には、本日のデザインの話のように、データサイエンス領域以外の哲学などの話を聞きながら、軸の形成に役立ててほしいと思っています。

セルジオさん
短期的な成功や即効性が重視される現代だからこそ、自身の領域外のテーマを聞くことや、長期的なビジョンの重要性をもっと社内外で共有していきたいですね。ビジョンは自分の軸となり、それがあれば困難に直面しても「なぜこれをするのか」を見失うことはないと思っています。ぜひ、皆さんには長期的なビジョンをしっかりと持って、日々の業務に取り組んでほしいです。

紺谷
本日はありがとうございました。


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www.brainpad.co.jp
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