ブレインパッドは、新人事戦略ストーリー「BrainPad HR Synapse Initiative(シナプス)」にて、「データ分析力」「哲学的思考力」「実践力」の3つを掛け合わせた「理系思考の経営人材」が最強の経営人材であるというコンセプトを置いています。
今回は、そのうちの哲学的思考力を開発する講座の一貫として、2か月間にわたり実施した「SFプロトタイピング研修」講師の宮本 道人先生と受講者とのクロストークをお届けします。このユニークな研修で、受講生が何を学んだか、また、ブレインパッドが何を大事にして研修を提供しているのかを、ぜひ知っていただければと思います!
【本記事の参加者】
宮本先生のプロフィール
宮本 道人(みやもと どうじん) 虚構学者、応用小説家、SF思考コンサルタント。 北海道大学CoSTEP特任助教、慶應義塾大学SFセンター訪問助教。 フィクションと科学技術を組み合わせてイノベーションを生む手法を研究し、 さまざまな企業の未来共創企画に協力。 著書『古びた未来をどう壊す? 世界を書き換える「ストーリー」のつくり方とつかい方』(光文社)。 共編著『SF思考 ビジネスと自分の未来を考えるスキル』(ダイヤモンド社)、 『SFプロトタイピング SFからイノベーションを生み出す新戦略』(早川書房)。 1989年生まれ。東京大学大学院理学系研究科物理学専攻博士課程修了。博士(理学)。 |
株式会社ブレインパッドからの参加メンバーのプロフィール
今村 一也 (いまむら かずや) 株式会社ブレインパッド アナリティクスコンサルティングユニット データサイエンティスト 新卒2年目 |
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紺谷 幸弘 (こんや ゆきひろ) 執行役員 人事担当 兼 ソリューションユニット副統括 |
SFプロトタイピングとは
SFプロトタイピングは、未来の可能性や技術の進化を探求し、それをフィクションの形で描くことで、新たなアイデアや展望を創出する手法です。今回の研修は、データ活用とは一見結びつきにくいSFという分野を学ぶことで、新たなビジネス創出のきっかけを提供したいという思いから実施されました。
今回の研修の内容
「40年後の銀行/デパート/駅/テーマパークのデータ活用」をテーマに、新卒1年目から役員まで、幅広い層が参加し、宮本先生の講義とチーム内でのグループワークを中心に進められました。宮本先生の講義は非常に興味深く、参加者は楽しみながら聞き入っていました。その一方で、未来を想像することは難しく、グループワークでは苦戦している様子もたびたび見られました。
このような研修の中で、受講者が何を感じたのか、以降ではクロストークの内容をお届けいたします。
SFとデータ活用の重要な共通点は、未来を想像し、視点を広げること
──データサイエンスのビジネス活用に注力しているブレインパッドで研修をされる際に、意識されたことがあれば、教えてください。
宮本先生
SF思考は基本的に、“未来を考える思考”として認識されていることが多いですが、それだけではありません。重要なのは、新しい視点を獲得し、これまで気づいていなかった長期的な可能性を探ることです。データを扱う際にも、似た観点が求められます。データ分析によって得られた結果をどのように解釈するかによって、新しい世界を切り開くことができる。SFプロトタイピングの思考を通じて、そうした視点をさらに深めてほしいというのが研修の1つのポイントでした。
紺谷
データは客観的なものと思われがちですが、実際には問題意識の持ち方が重要で、ロジカルなアプローチだけでは有益な視点が得られないことがあります。視点を広げ、新たな問いを立てることは、データサイエンスに関わるどの職種でも必要だと思います。研修を通じて、さまざまな"はみ出し方"を学んだので、実業務でも応用していきたいと感じています。
今村
私も同じ意見です。データの分析においては、データでは見えないけれど、見落としてはならない重要な観点があると思っています。そのため、今後もデータを用いたより良いソリューションを提供するためには、データでは捉えきれない部分を想像し、それを補うことが重要だという問題意識を持ちながら研修に参加しました。研修で面白かったのは、ペルソナを想定することで、一見突拍子もないアイデアが、現実に起こり得る可能性を見出せたことです。その視点を活用することで、今後のプロジェクトにおいても、より良いサービスを提供することにつながると感じています。
──研修を実施して、ブレインパッドならではの特徴はありましたか?
宮本先生
ブレインパッドの皆さんは、想像力が非常に豊かだった点が印象的でした。研修では、デパートなどさまざまな場所での40年後のデータ活用について考えてもらいました。一般的に理系の方が多い企業では、アイデアが固まりがちなのですが、ブレインパッドではアイデアが自由に広がり、特に科学的な視点にこだわらないところが意外でした。
──想像力が広がった議論が展開された一方で、議論の着地点を見つけるのが難しいのではないかと感じました。実際に受講して、どうでしたか?
紺谷
確かに、議論を広げた後に着地させるのは難しかったです。テーマである、40年後という未来の可能性と人間の変わらなさという現実の間で揺れ動く感じがありました。リアリティを追求すると、すべてが無理に思える瞬間もあり、その許容範囲をどう決めるかが難しかったです。
今村
私のチームでも同様の懸念がありましたが、実際にはアイデアが自然に出てきた印象が強く、現実に戻そうという意識があまり強くなかったように思います。
宮本先生
新規事業開発のような短期的なアプローチとは異なり、SF思考のワークショップでは長期的な視点が求められるのが特徴です。そのため、ワークショップ内に戸惑いや不安をあえて組み込むことで、ハラハラドキドキさせ、最後まで結論が見えないまま進行させたことが、SFならではの面白さでした。
データサイエンスでは、見落としている要素を補完しながら、新たな視点や問いを生み出すことが必要
──宮本先生は「SFプロトタイピング研修で学んだことをビジネスにどう活かすか」が重要だとおっしゃっていましたが、受講者の皆さんはどのように活かしていきたいと考えていますか?
紺谷
これはかなり難しい問いですね。今の世の中は不確実性が高く、予測不能な事象や制約が多いです。その中で、良い問いを作ることは非常に重要だと思います。たとえば、研修中に『エイリアンに物事をどう伝えるか』を考える時間がありました。その際、自分の考え方がいかに狭い枠組みの中にとらわれていたかに気づくことができました。
宮本先生
コロナ禍のような現象をデータから予測するのは難しいですが、過去の鳥インフルエンザなどの事例から、ある程度の予測は可能だったかもしれません。しかし、多くの人は感染症について真剣に考えていなかった。データが存在しても、それを活かすためには考える視点が必要です。今後のデータサイエンスでは、こうした不確実な状況にも対応できる新たな視点が求められます。
今村
私も長期的な視点でデータサイエンスを捉えることについて、研修前から考えていました。当社は『Data-driven as Usual』をVision(ビジョン)に掲げていますが、未来の社会のイメージ、特にその社会が実現した際に人々がどう生き、どう考えているかについてのビジョンを明確に描けている人はそう多くないと感じています。社内でSF思考を使ったワークやハッカソンを実施しているのですが、議論が進むと、データに監視される社会のディストピア的な側面についての話題に移りがちです。今後、私たちが目指す『Data-driven as Usual』な世界を実現するためには、ユートピア的な視点を持ち、その解像度を高めないと、ビジョンの達成や他社との差別化は難しいと感じています。
宮本先生
データサイエンスは単に過去のデータを分析するだけでなく、見落としている要素を探り当てることが大切です。ワークショップでも伝えましたが、たとえば、性差医療という研究分野では、薬の副作用のリスクは男性より女性のほうが高いという報告がされています。しかし歴史的にみると、長い間そのような認識はされてこなかった。男性やオスを対象に実験を行い、基準を作ることが多かったそうなんです。今後のデータサイエンスでは、いま目の前に見えているものだけでなく『何を見落としているか』を探ることが重要であり、SF思考と組み合わせることでその視点を獲得していただければと思います。
紺谷
ビジネスにおいては、問題設定が鍵だと思います。今は対象にしていないものを対象にする場合、どこから何を考えるべきかが難しく、アプローチ方法を模索する必要があります。
宮本先生
ビジネスでは短期的な失敗を受け入れることも重要です。『ホドロフスキーのDUNE』という映画がありますが、このプロジェクトは壮大な構想のために失敗に終わりました。しかし、その絵コンテは後のハリウッド映画に多大な影響を与えています。ビジネスでは、成功したプロジェクトからヒントを得ることが多いですが、成功しなかったプロジェクトにも価値があり、それが後の基礎を築くこともあると思います。
技術の進化に対しユーザーが追いつくために、SF思考を使って未来の課題を議論することが重要
──改めて、今の時代になぜSFが必要だと感じているか、それぞれの考えを教えてください。
今村
不確実性が高まる現代では、技術が指数関数的に進化している一方で、その進歩に対し、人間がどのようにその技術を使うか、という創造性や判断力が追いついていないのではないか、という疑問をもっています。例えるなら、ゲームで強力な武器を持っていても、使い手が未熟であればその効果を最大限発揮できないのと同じで、技術を持つだけではなく、どのように活用するかが重要だということです。このような状況において、SF思考は、技術の可能性や未来の社会を考えることで、単なる技術理解を超え、技術の使い方に対する倫理観や判断力を磨くための訓練場となります。不確実な未来に向けて、私たちが何を求め、どのように行動すべきかを探るために、SF思考はとても重要だと思います。
紺谷
技術がどんなに進歩しても、その先には、人間同士の問題があると思います。技術によって解決できる問題も多いですが、利害関係者が絡み合う複雑な問題、たとえば価値観の違いや宗教的な対立といった問題は、解決が難しいと感じています。人類全体として、そうした問題への対処が遅れていると認識しており、未来を考える際には、未来の価値観や対立のバリエーションを事前に想像することが重要だと思いました。
宮本先生
未来の価値観を考えるのは非常に難しいです。しかし、だからこそ、SF思考を使って考える必要があると思っています。SF思考ワークショップは単なる『未来構想ワークショップ』ではない、というのが重要なポイントだと思っています。その理由は、未来をイメージすることだけが目的ではないからです。特に長期的な未来では、社会が複雑化しているためデータが機能しにくく、単純な予測は困難です。現代はローカルなリスクがグローバルに拡大する時代で、組み合わせが爆発的に増えやすいのです。たとえば、遠く離れた地域の人と簡単にやり取りできるようになったことで、関わる人が増え、起こり得る事象・問題も増えています。こうした観点をふまえ、これまで関係ないと思われていたようなさまざまな立場を想像しながらデータを扱えるようになる、というのが、これからのビジネスパーソンに求められることかと思います。
SF的アプローチは、専門家でない参加者同士でもフラットに議論できる点が強みですので、ぜひ多くの人に活用していただきたいです。
■当日の研修の様子と研修資料
まとめ
いかがでしたか? SFとデータ活用の繋がりは、一見すると分かりにくい部分もありますが、受講生の皆さんが、日々抱えている課題と照らし合わせながら、SF思考を業務とどう結び付けていくかを考える機会になったことが、十分に伝わったのではないかと思います。
ブレインパッドでは「日本一の人材開発・輩出企業を目指す」ことを人事戦略の根幹として、さまざまな研修を展開しています。時には、今回の研修のように「一見、業務に関係がなさそうな」コンテンツもありますが、当社では異分野の学びこそが本業を極めることに繋がると考えています。そのため、今後も幅広いバリエーションの研修を提供していきたいと思っています。
また、今回のように希望制での研修提供を行うことで、若手社員であっても主体性を持てばどんどん視野を広げる機会が得られると考えています。今後も社員が、さまざまな研修を通じて新たな視点を得るとともに、成長に繋がるようなプログラムを提供していきたいと思います!
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