田中慎一
財務戦略アドバイザー/NewsPicksプロピッカー
欧州金融アナリスト協会連合EFFAS公認ESGアナリスト
株式会社インテグリティ代表取締役
慶応義塾大学経済学部卒業後、監査法人太田昭和センチュリー(現あずさ監査法人)、大和証券SMBC、UBS証券等を経て現職。M&A、スタートアップ企業のCFO、買収後の企業変革、CxOのサクセッションプランなど企業の財務戦略に関するアドバイザー。著書に「SDGs時代を勝ち抜くESG財務戦略」「コーポレートファイナンス戦略と実践」(ダイヤモンド社)等。
今の時代だからこそ自分事化したいファイナンス
西田
本日は素晴らしい講義をありがとうございました! 演題の通り、ファイナンスが自分事になる講義でした。
田中さんの講義を聞いていて改めて感じましたが、ファイナンスは、ビジネスパーソンのみならず、どんな人にも必須の知識・スキルですね。
田中さん
そうですね。しかも、ファイナンスは、現在、ESGやサステナビリティが重要視されていることを背景に、注目が高まっています。そして、対話を通じて積極的に企業に働きかける(=エンゲージメント)株主が増えていますので、企業に緊張感をもたらすようになりました。緊張感は、企業を鍛えることにつながり、結果として、企業価値が向上し株価が上がることにつながりました。35年間株価が上がらないという呪縛から解き放たれて、日経平均株価が最高値を更新したことで、大手町・丸の内界隈が明るくなりましたよね。このように、ファイナンスが注目されることは、とてもよい循環を生むと思います。
西田
株価が上がるということは、資産価値が上がることですからね。
田中さん
「投資ファンドなど資産運用会社が儲かっているだけではないか」といった意見もありますが、それは大きな誤解です。資産運用会社が投資する資金の元手はどこから出るのかといえば、その多くは機関投資家、つまり、年金基金です。年金基金は、我々ひとりひとりが負担している年金保険料が積み立てられたお金です。年金基金から運用を委託された資産運用会社は、それを元手に企業に投資します。株主たる資産運用会社から企業価値を向上するよう働きかけられた企業は鍛えられ、会社が強くなれば、その会社の売上・利益が上がるため、企業価値、ひいては、株価が向上します。そして、企業で働くみんなの給料も上がります。結局、我々自身が拠出したお金が資本市場を通じて、我々自体が豊かになっていく。これがみんながハッピーになる株主資本主義の構図なんです。
西田
まわりまわって、社会全体がよくなるんですね。
田中さん
そうなんです。また、こういったことを理解して実践するスキルであるファイナンスに、皆さんが持っているマーケティングやITなどのいろいろな強みが掛け合わさると、10人に1人、100人に1人の余人をもって代えがたい人間になれると思います。
西田
ファイナンスを武器にする意味では、より一層、財務会計を自分事化することがとても大切だと感じます。自分事にするために、上場企業の平均値などの世の中の普通を知るということと、一人あたりに換算して手触り感のある塊に落とし込むことは、重要なキーですね。
田中さん
そうですね。今日はこの二つだけをお持ち帰りいただければ、私としては、やった甲斐があったと思います。
西田
平均を知ることで自分の会社の立ち位置や実力がわかりますし、ひとり当たりの数字を知ることで自分の給料がどれだけ上がる余地があるかすらも、なんとなくわかりますからね。
ファイナンスは、会社丸ごとを評価してもらうための総合格闘技
西田
そういった意味では、今日の田中さんのお話は、入社する前の会社選びのタイミングで聞きたかった社員も多かったのではないかと思います(笑)。
田中さん
そうかもしれませんね。「よい会社はどこか?」といった世間の評判などはどうでもよいと思っています。ファイナンスの視点から会社が何をしようとしているのかを理解することも会社を選ぶときのひとつの切り口として持っているとよいと思います。
西田
人気企業ランキングでの上位企業や、今注目されている会社に、みんな行きたがりますよね。ですが、田中さんがおっしゃるとおり、例えば、20年後のために、今、何か仕込んでいるかという観点から見ることも大事だと感じます。
田中さん
会社を選ぶ側から見れば、20年後の未来をつくるための動きができているかどうかを、自分なりに見極めるべきですよね。とはいえ、新入社員として最初に入る会社は、一生勤め上げるわけではないですから、どこに入るかは正直、誤差の範囲だと思います。ステップアップ、キャリアアップ、経験として考えていけばいいとも思います。間違ったと思ったらやり直せばいいし、転職を織り込んで入社したのならなおさらです。
西田
だからこそ、転職の際は、田中さんのおっしゃったような観点から、会社を見て選ぶというのが、とても大事ですね。逆にいうと、見極められる会社側からすれば、そういった目を意識した、経営なりIRなりを意識していかないとまずいという話ですね。
田中さん
そうなんです。そういう意味では、たとえば営業やマーケティングが自社の商品・サービスを売り込むことだとしたら、ファイナンスやIRは会社丸ごとを買ってもらうということです。だから、会社全体の魅力をマーケットに伝える、そして、株を買ってもらうのがファイナンス戦略です。つまり、総合格闘技なんですよね。これがファイナンスの一番面白いところだと感じます。
西田
ファイナンスは「総合格闘技」である。
田中さん
これは面白いと思っていて。ビジネスそのものもファイナンスも、唯一無二の正解なんかあるわけないですよね。それでも困ったときは、あらゆるビジネスの現場と一緒ですが「マーケットに聞け」なんですよね。
西田
なるほど。ちなみに、今マーケットで注視したい指標では、何がありますか?
田中さん
「CCC(Cash Conversion Cycle)」でしょうか。PBRやROEのように、日経新聞の記事に出てくることが多いわけではありませんが、いまとてもフォーカスされています。なぜかというと、CCC自体は、同じ業種・業態の中では企業間でほとんど変わらない指標だったのですが、デジタルの力で劇的に変えられるようになっていて、今まではプラスの数値(お金が先に出ていく一般的なビジネスモデル)が当たり前だったのがマイナス(お金が先に入ってくるビジネスモデル)にすることもできるようになったんです※。これはもう革命です。そういった意味で、ブレインパッドはデジタルで事業を支援する側の会社なので、ファイナンスについて理解を深めることでこういった革命級のインパクトをお客様にもたらすことができたら面白いなあと思っているんですね。そんな期待を込めて今日の講義ではお話ししました。
※【解説】お金を生む力。アマゾンとZARAは「CCC」がすごい
newspicks.com
西田
とても響いたと思います。
田中さん
良かったです。ブレインパッドには、こういったファイナンスにまでインパクトを与えるようなデジタルの活用をソリューションとして、小売業や製造業など、多様な業界に提供していただけるとすごくいいのではないかなと思います。お客様に対する新しい付加価値提案が、自社の売上・利益、そして、自分のボーナスを上げる、自社の株価をも上げるとか、そういうことに喜びを少しでも感じてもらえると、さらに面白いかなと思います。
西田
なるほど!ファイナンスが実効性の高い武器になりそうなソリューションですね。改めて、本日は講義をありがとうございました!
田中さん
ありがとうございました!
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最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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