創発教室 楽屋裏話 講義アフタートーク ヘーゲル哲学に学ぶ考え抜く力 講師:宮崎公立大学 人文学部 准教授 川瀬和也氏

ブレインパッドは、2023年11月1日に、新人事戦略ストーリー「BrainPad HR Synapse Initiative」を発表しました。本記事では、この戦略の特長の一つである独自の研修体系の中から、研修の目玉の一つである「創発教室」の講師陣と、当社CHRO西田とのアフタートークをお届けしてまいります。今回の講師は、宮崎公立大学 人文学部 准教授 川瀬和也さんです。

ブレインパッドは、当社グループの中期経営計画を人的資本の側面から強力に推進する新人事戦略ストーリー「BrainPad HR Synapse Initiative」を発表しました。
多くの施策の中で目玉の一つとなるのが、この「BrainPad Liberal Arts Core(LAC) 創発教室」です。
創発教室は、「本業を極めたければ異分野を学べ!」をコンセプトに、リベラルアーツを楽しみながら学び、「データ分析力に、哲学的思考力と、ビジネスでの実践力が掛け合わさった最強人材」の開発を目的として構成された全9回の育成プログラムです。
本記事は、そんな創発教室の講師陣にお話をお伺いするクロストークをお届けします。今回の講師は、宮崎公立大学 人文学部 准教授 川瀬和也さんです。

ー講師プロフィール
川瀬和也
宮崎公立大学 人文学部 准教授

1986年、宮崎県生まれ。2009年、東京大学文学部思想文化学科哲学専修課程卒業。2014年、東京大学大学院人文社会系研究科博士課程単位取得満期退学。博士(文学)。専門はヘーゲル哲学、行為の哲学。東京大学大学総合教育研究センター特任研究員、徳島大学総合教育センター助教などを経て現職。日本ヘーゲル学会理事。著書に『全体論と一元論 ヘーゲル哲学体系の核心』(晃洋書房)、『ヘーゲルと現代思想』(同、共著)などがある。2017年、論文「ヘーゲル『大論理学』における絶対的理念と哲学の方法」(『哲学』第68号)にて日本哲学会若手研究者奨励賞受賞。


講義テーマ
「ヘーゲル哲学に学ぶ考え抜く力」


ビジネスパーソンこそ哲学を学ぶ時代

西田
改めて、講義いただき、ありがとうございました。

川瀬先生
ありがとうございました。

西田
川瀬先生の著書「ヘーゲル哲学に学ぶ考え抜く力」を拝読し、前職時代に研修の講師をお願いしたのが先生との出会いでした。私自身、カントとヘーゲルの対比を読み解くことが哲学の醍醐味の一つだと思っています。その対比を川瀬先生がわかりやすく教えてくださることで、哲学の面白さはもちろん、ビジネスのヒントを得ることができました。ブレインパッドのメンバーにも、気軽に哲学に触れ、哲学の楽しさを味わい、哲学がビジネスにも役立つということを知ってほしいと思い、今回、川瀬先生に講師をお願いしました。
最近は、当社に限らず、ビジネスパーソンが哲学を学ぶことがブームになっていますね。川瀬先生はどうお感じですか?

川瀬先生
そうですね。ブームをきっかけに哲学に触れていただき、哲学の面白さを知ってくださる方が増えると嬉しいです。

西田
哲学が注目される時代背景として、VUCAの時代があると思います。
混迷が深まる時代で、先が見えない、何を信じていいのか分からない、何を軸に考えたらいいのか分からない状況になっています。そんな中、藁をもすがる思いで本質を見極める学問である哲学に注目が集まっていると感じます。先が見えないというのは昔から変わらないとは思いますが、川瀬先生は、哲学が注目される背景をどのように感じていますか?

川瀬先生
仰るとおり、先が見えないのは昔から変わらないと思います。
ヘーゲルは200年ほど前のフランス革命の頃、近代という時代の始まりを生きた人です。その時代から、どんどん新しいモノやコトが求められてきました。そんな状態が、今に至るまで続いています。特に昨今は、今までのやり方がまったく通用しないという実感を持つ人が増えていることが大きいのではないでしょうか。そこで、まったく新しいやり方を考えていくために、哲学という学問が注目されているなと思います。

西田
なるほど。そういった時代背景の中で、ビジネスにおいてはヘーゲルの弁証法が引用されることが多いですよね。

川瀬先生
そうですね。哲学史の教科書にもよく書かれていることですが、折衷案として、総合的に考える方法として弁証法が引用されることが多いと思います。ですが、それ以上に弁証法には、「どうしたらいいか分からないけれども、今までの枠組みを壊しながらなんとか前に進めていく」というニュアンスがあります。「弁証法」という言葉からは、さまざまな場面で応用できる方法論、フレームワークといったイメージを持たれてしまうことが多いかも知れません。ですが実際にはむしろ、フレームワークが通用しない場面を言い当てた言葉です。この部分まで見ていただくと、さらに弁証法の重要さが分かっていただけるのではないかなと思います。

西田
弁証法の「なんとか前に進む」ということは、螺旋階段にたとえられることがありますよね。螺旋階段を下から見るとぐるぐるとまわって変化がないように見えますが、横から見れば確実に上に登っている、ステージアップしているという例えです。

川瀬先生
そうですね。ヘーゲルが発言したかどうかというのはありますが、行ったり来たりしながら前に進んでいくという点でいうと、理解できる解釈です。

西田
今日の講義の中でもありましたが、弁証法には分かりやすい定義があるように思いがちですが、実はヘーゲル自身も明確に定義をしているわけでもなく、学んで紐解いていかないと分からないという奥深さがありますよね。

世の中をよくすることが共通の目標

西田
企業内大学、企業研修で哲学を扱うことをどう思われますか?

川瀬先生
一言でいうと素晴らしい取り組みだと思います。どうしても哲学は、俗世間から離れている、日常生活とは関係ないものだというイメージが先行してしまっていることがあり、とても残念に感じることも多いので、注目してもらえるのは嬉しいですね。
企業内大学や企業研修を通して、哲学がビジネスに役に立つということを身近に感じていただきながら、ビジネスそのものが発展する新しいアイディアが生まれていくとなおさら嬉しく思います。

西田
企業やビジネスパーソンが哲学を学ぶ意義ということで、講義の中で、小林祐児先生の『リスキリングは経営課題 日本企業の「学びとキャリア」考』(光文社新書)をご紹介いただき、社会人の「学び直し」のためのアンラーニング、ソーシャル・ラーニング、ラーニング・ブリッジに加え、哲学を学ぶことが有効とお話しいただきました。
この学び直しの観点から見ても、企業側が企業内大学での学びを充実させることで、どんどん大学化している一方で、逆に、大学側が企業化しているような印象があります。この企業内大学と大学との境界線が益々あいまいになってきている昨今の現象をどのように見ていらっしゃいますか?

川瀬先生
確かにそのような現象は起きていると感じます。特に人を育てるという点は、企業も大学も共通していますよね。学生や社員の視点で言い換えると、企業も大学も、人が学ぶ場であるということにもなります。
加えて、面白いと思うのは、企業も知識を創造しているということです。以前は、知識を創造する役割は専ら大学が担っていました。ですが、ここ数十年、高度知識社会といわれるようになって、企業も知識を創造しているという認識が増してきています。そういった中で、企業と大学がどんどん近づいて協力できる場面が増えていくと思います。

西田
今までの産学連携以上の展開も考えられますか?

川瀬先生
そう思います。これまで産学連携というと、理工学分野での共同研究というイメージでしたが、例えば教育の分野など、それを超える協力の可能性はあると思います。企業と大学のそれぞれの組織思想が異なるので難しさもあると思いますが、共通の目標やビジョンを持つことができると感じています。共通の目標やビジョンに向けて、ときにはコラボレーションしながら、企業と大学が一緒に発展していくと、世の中をよりよくしていくことにつながると思います。

西田
私も複数の企業で人事を長くやってきましたが、「すべての産業は人材育成産業だ」と実感しています。そう意味でいうと、大学で先生方が向かっているPurposeと、企業側のPurposeは共通だと思います。今まで以上に企業と大学が手と手を取り合うことで、共に世の中をよくしていきたいですね。

データには異分野をつなげる可能性を秘めている

西田
データを扱うブレインパッドが哲学を学ぶ意味については、先生のお立場からどう見えますか?

川瀬先生
今回、リベラルアーツ、創発ということで講義テーマをいただきました。その中でアナロジー思考のように、「一見つながらないものをつなげていくことで、新しいものが生まれていく」ということを講義のコンセプトにしました。まったく異なるデータの中に同じ構造が見えてくることは、まさに哲学が得意とするアナロジー思考です。また、データと親和性がないと思われる分野でも、新たな発見や展開をもたらすこともあります。例えば、デジタル人文学といわれる学問領域では、データの技術を駆使することで、特定の単語がどのような場面でどれだけ出てくるか?などと、文章の分析を通じて研究しています。そうした意外なつながりを見出す部分でデータサイエンスは非常に長けていると思いますし、哲学とも親和性が高いと思っています。そういったところからこそ、創発が生まれると思います。

西田
講義の中で出てきた「ELSI(倫理的Ethical・法的Legal・社会的課題Social Issues)」にもつながりますね。

川瀬先生
産業や政策においても、倫理的な部分はいったん無視して・・・とはできません。複数の要素をつなげて連動して考える必要があります。

西田
我々も生成AIを扱っていますが、倫理はもちろんELSIの視点は重要です。そういった意味でも、これからも我々は哲学を真摯に学んでいきたいです。
改めて、今日は講義にご協力いただき、ありがとうございました!

川瀬先生
ありがとうございました。

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いかがでしたでしょうか。哲学の面白さやビジネスとのつながりを少しでも感じていただければ幸いです。

川瀬先生の講義内容や、ブレインパッドにご興味をお持ちいただいた方は、ぜひ以下をご覧ください。

■川瀬先生の書籍
『ヘーゲル哲学に学ぶ 考え抜く力』(光文社新書)
www.kobunsha.com



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