人工知能のD型とS型(つづき)
前回は、「人工知能」の最近のブームを、松尾豊先生(※1)に従ってD型とS型という区別で考えるとどうもスッキリ理解できそうだ、というところまでお伝えしました。では、さっそく続きのお話に進みたいと思います。
私は、以下のように「D型/S型」を理解しました。
D型は、“Deep Learning(深層学習)”(※2)に代表されるような、人間の脳の仕組みそのものをコンピュータでシミュレートする、という根本的なところからアプローチするタイプ。これは非常に困難で挑戦的なテーマですが、ニューラルネットワーク(神経回路網)(※3)の分野でいくつか決定的な進歩があり、研究が端緒についたらしい。しかしながら、まだまだ端緒に過ぎず、人間の赤ちゃんの脳ができるようなこと程度しかできないものの、人間の脳と同じように、実際に「自分でできる」という点はすごい。現状では、私の世代には昔懐かしい「ブロックくずし」ゲームをD型で完全攻略できるようになったそうです。
一方のS型は、統計学や機械学習的なデータ分析アプローチを発展させることで、「知的」な判断、例えば予測や最適化をより高い精度で、より広い分野で、行えるようにしていくというアプローチです。こちらはデータ分析ですから高度なことができる。しかし、実は、人間の専門家がアルゴリズムやデータの形で人間の知性を埋め込んでいるので、裏で人間が糸を引いている操り人形のようなものです。チェスや将棋で「人工知能」が人間の名人に勝てるようになったというのも、このS型です。
D型は赤ちゃん、S型は(偽の)大人、というわけで、すごく見通しがよくなった気がしました。
自然言語処理は D? S?
では続いて、この分類を「自然言語処理」(※4)に応用してみましょう。コンピュータが人間の言葉を「理解」してくれる技術です。これもビジネスやマーケティングの分野でホットな話題です。例えば、ECサイト内にて日本語で説明された商品の内容を理解したり、ユーザの文章から気持を理解してくれるなら、ずっと良い推薦や自動マーケティングができるでしょう。これはDか、Sか。赤ちゃんはまだ言葉を使う段階にはないですから、D型の人工知能が言葉を操れるようになるのはおそらくずっと先の課題だろう、と想像がつきます。つまり、即ビジネスに応用できるようなレベルで言えば、これはS型でなくてはならない。
そしてブレインパッドとMyndは…
この分類の視点からすると、ブレインパッドの技術のコアはS型である、と言えます。本来、企業内に蓄えられたデータの数値的な分析から始まって、そのシステム化やデジタルマーケティング領域への応用・適用を進めてきたブレインパッドの肝は、統計的手法や最適化理論を背景にした「データサイエンス」(これもややバズワードですが)でしょう。そして、グループ会社のMyndについて言えば、やや機械学習の分野に傾斜していて、特にニュース推薦のような自然言語処理を得意としていますが、やはり同じくS型中心です。
現状においては、ビジネスで圧倒的な強みを発揮するのはS型であるのは間違いのないことで、例えば、顧客のデータを縦横無尽に使った多彩なマーケティングアクションを提供するプライベートDMP「Rtoaster」は、S型の真骨頂とも言えるでしょう。また、最近のことですが、我々MyndもRtoasterに自然言語処理による推薦機能を提供しています。
しかし、当然ながらD型への投資も必要だと考えています。こちらは赤ちゃんを育てるのと同じですから、息の長い話になりそうですが、ブレインパッドでも調査や実応用の可能性を探るプロジェクトを推進中と聞いていますし、Myndでもすでに深層学習のテクニックを応用し始めています。本日発表したばかりの、ブレインパッドの自然言語処理エンジン“SemanticFinder”とMyndエンジンを組み合わせた、新サービス“Mynd plus”にも、D的な部分をどう組み入れていくか、まさに検討しているところです。
■2015年10月22日 Mynd plusニュースリリース
http://www.brainpad.co.jp/news/2015/10/22/1156
■Mynd株式会社
mynd.jp
■Rtoaster
http://www.rtoaster.com/www.rtoaster.com
(※1)松尾 豊先生ご紹介
東京大学大学院工学系研究科 総合研究機構(若手育成プログラム)/知の構造化センター/技術経営戦略学専攻 准教授
東京大学大学院工学系研究科 技術経営戦略学専攻 消費インテリジェンス寄付講座 代表
http://ymatsuo.com/japanese/
(※2)多層構造のニューラルネットワークの機械学習のこと。(「ニューラルネットワーク」:脳機能の特性を計算機上のシミュレーションによって表現することを目指した数学モデル)
(※3)脳機能の特性を計算機上のシミュレーションによって表現することを目指した数学モデル。
(※4)人間が日常的に使っている言語をコンピュータに処理させる一連の技術であり、人工知能と言語学の一分野。