【前編】「AI時代に、データサイエンティストは不要になる?」—— データサイエンスの現場では今何が起きているのか?

「AI(人工知能)が進化したら、データサイエンティストは不要になるのでは?」
——AI時代の今、データ・AI関連の職種を目指す学生からよく聞かれる問いがあります。
この問いに、ブレインパッドのデータサイエンティストとして活躍する本山さんと、「ブレインパッドでAIを事業にどう活かすか」を最前線で模索する浦田さんの2人が答えます。
会話は意外にも「テクノロジーの話」というより、人としてどうしていくべきかという「人間の話」を中心に展開されました。
就活で進路に悩む学生の皆さんに、ぜひ読んでいただきたい対談です。


本山 遼(もとやま りょう) 浦田 勇樹(うらた ゆうき)
株式会社ブレインパッド
リードデータサイエンティスト
ブレインパッドには2022年2月に入社。
株式会社ブレインパッド
’’ Business AI Strategy Manager’’
ブレインパッドには2025年9月に入社。

Chapter 1. AIを「使い倒す」2人——リードデータサイエンティストと元起業家、それぞれの現在地

司会
今回は「AI時代にデータサイエンティストは不要になるのでは?」という、就職活動中の学生の皆さんも気になるであろうテーマについて、お2人にじっくり伺います。まずは本山さんから自己紹介をお願いします。

本山
本山と申します。ブレインパッドでリードデータサイエンティストをしています。キャリアとしては、元々は化学メーカーで材料開発に携わっていました。そこでマテリアルズ・インフォマティクス※に取り組む中で、データサイエンスと出会ったんです。
※マテリアルズインフォマティクスとは、材料開発にデータ科学を応用する研究手法のこと。

当時は「DX」がバズワードになっていた時代でした。私はDX推進チームに入ったのですが、そこで「仕組みを作っても人はそう簡単には変わらない」という現実に直面しました。そこから「DXの意義をちゃんと人々に伝えて、業務を変革してもらうにはどうしたらいいのか」を、新卒時代の2年ほど考え続けたのが私の原点です。
そこからブレインパッドに入社して、初めは広告の分析や、顧客行動データを使ったソリューション開発を担当していました。今は生成AIの可能性を強く感じていて、生成AIを活用したデータ分析のAIエージェント開発に取り組んでいます。「生成AIを組織に根付かせて、組織や人をどう変えていくか」が今のミッションです。

司会
ありがとうございます。では次に浦田さん、お願いします。

浦田
浦田と申します。ブレインパッドには2025年9月に入社しました。現在は’’ Business AI Strategy Manager’’という役割で、「AIの導入自体を目的にせず、売上や利益などの事業成果につなげるにはどうすればよいか」を考え、現場での実行支援や、継続的に活用するための仕組みづくりまでを担っています。
キャリアとしては、新卒でリクルートに入社しました。ただ、「何でも自分でやりたい」という気持ちが強く、プログラミングとデザインのスクールに通った後、友人と一緒にWeb3・ブロックチェーン領域※で起業しました。
※Web3とは、ブロックチェーン技術を基盤とした「分散型のインターネット」の概念のこと。

その後は、Web3領域のコンサルティングやスタートアップ投資、ファンド運営を担うGP(ジェネラル・パートナー)などを経験しました。さまざまなスタートアップの事業構想に触れる中で、「AIを使いこなせるかどうか」が、今後の競争力を大きく左右すると感じるようになりました。それが2023年頃で、そこから自分の仕事にもAIを積極的に取り入れるようになっていきました。

司会
そこからブレインパッドになぜ入社されたのでしょうか?

浦田
一番の理由は、人と環境です。選考の過程で、AIを実務で使いこなす人が多いと分かったのと、自ら手を挙げて挑戦する人を後押しする文化があると思いました。自分の意思を起点に役割や仕事の幅を広げていける。そう感じられたことが、入社の決め手です。


Chapter 2.「データサイエンティストはAIに代替される」論に、どう答えるか?

司会
それでは本題に入ります。最近「データサイエンティストはいらなくなるのでは?」「AIに代替されるのでは?」という声をよく聞きます。率直に、お2人はどう考えていますか?

本山
まず、「代替されるとしたら、もうすでに代替されているのでは?」というのが正直な感想です。データ分析の定型的な手法や技術は、たしかにAIがこなせるようになっています。だから分析や報告書作成といったタスクはどんどん楽になっている。その一方で、データサイエンティストがやるべきことは、むしろ増えていると感じています。

理由は、「データ分析ができる」という状態と、「その結果を活かしてビジネスが変わっていく」ことの間に大きなギャップがあるからです。分析だけで終わらせず、ビジネスが変わるところにちゃんと切り込めるか、その重要度が増しています。なので、データサイエンティストとしての役割はなくならないと思っています。

司会
「AIにはなくて、人間にはあるもの」とは、具体的に何でしょうか。

本山
3つあると考えています。
1つ目は責任です。
AIは分析結果を出せますが、その結果が3ヶ月後に施策としてビジネスの成果に結びつくところまで引き受けることはできません。生成はできても、コミットはできない。責任を持てないんです。
2つ目は現場感覚です。
AIは渡されたコンテキストの中でしか判断できません。このデータは信用できるのか、本当の意思決定者は誰か、そこに至る歴史的な経緯は何か、といったことは分からないわけです。
データサイエンスのよくある失敗は、分析手法そのものより、その前後左右にある業務文脈の理解不足で起きているケースが多いです。結果は出たのに成果に結びつかない、その断絶は現場感覚に起因します。
3つ目は目利きです。
AIによってアウトプットを生産するコストはどんどん下がっていますが、アウトプットの良し悪しや意思決定の正しさを検証・判断するコストは、ほぼ人間が持ったままです。しかも厄介なことに、AIは流暢に大量の答えを出してくるのに、その流暢さと正確性に相関がない。
人間なら、結果が出るまでの悩みや試行錯誤と精度にある程度の相関がありますよね。一方で、AIはアウトプットを出すことに悩まないんです。分析のコストが下がれば分析の総量は増える。だからこそ、「何のデータで何を分析したことに価値があるのか」を見極める仕事は、人間側でむしろ増えていくはずです。
まとめると、 責任、現場感覚、目利き。この3つが、人間のデータサイエンティストの役割として残るものだと考えています。

司会
本山さんの意見を聞いて、浦田さんはいかがですか?

浦田
本山さんに付け加えるなら、「問いを定義する力」が非常に重要だと思っています。クライアントが課題として挙げているものは、本当に今解くべき課題なのか、解決すれば事業成果につながるのか、経営上の優先順位はどこにあるのか。示された要望をそのまま受け取るのではなく、その背景や目的を一緒に掘り下げる必要がある場面は、たくさんあります。AIは素直なので、指示を与えられたら言われた通りにしかやりません。だから、「最初に渡す問いをいかにシャープにできるか」が問われます。

本山
AIは、クライアントが使っても我々が使っても、同じ問いには同じ結果を出してきます。だからクライアント側でも、ある程度の分析は自分たちでできるようになっていく。それ自体はいいことなのですが、その結果として、「過剰な分析」や「過剰な試行錯誤」が行われる可能性が、以前より高まっているんです。AIで一定の能力が標準化された世界では、よく「AIスロップ」と言われるような、実際には課題解決に直結しないアウトプットがどんどん生まれてくる可能性がある。
だからこそ、出てきた結果を、クライアントが出したものも我々が出したものも含めてしっかり仕分けて、「この分析は今の課題解決に直結するのか」「そもそもこの課題自体が解くべきものなのか」を確認する。そして、そのトリアージの結果を誠意を持って伝える。その責任が、これまで以上に求められていると感じています。

司会
実際の現場でも、そういう変化を感じますか?

本山
そうですね。データサイエンティストにも、目先の分析で終わらせず、「長期的な視野で見たらこちらが価値を出せますよ」と提案し続けて合意してもらう提案力が求められていると、ひしひしと感じています。

浦田
AIによって相対的にコモディティ化しやすいのは、How、つまり実現するための手段の部分だと思うんです。どれほど強い武器を持っていても、倒すべき相手や進む方向を間違えれば、成果にはつながりません。AIによって実行の速度が上がるほど、正しい方向にも、間違った方向にも速く進めてしまいます。
だからこそ、Why、つまり「何のために取り組むのか」を明確にし、目的に沿ったロードマップを組む必要があります。データサイエンティストやコンサルタントには、事業や現場の文脈を踏まえて優先順位を判断し、AIという手段を課題設定から実装、成果までつなぐ役割が、より求められるようになると思います。

司会
エンジニアについてはどうでしょう?エンジニアの方が代替されやすいのでは?という風潮も感じます。

浦田
エンジニアにも、データサイエンティストと同じように、「何を、なぜ作るのか」という問いを定義する力がこれまで以上に求められると思います。コード生成など実装工程の一部では、生成AIによる支援や自動化が進むでしょう。しかし、それで「エンジニアリングの知識が不要になる」とは言えません。
例えば、「生成AIで作ったため、設計や挙動、安全性を説明できません」という状態では、クライアントに安心して使っていただくことはできません。生成されたコードや設計を読み解き、要件への適合性や品質、セキュリティ、保守性を、あらかじめ定めた基準に照らしてテストやレビューで確かめ、その判断根拠を説明するにはエンジニアリングの知識が必要です。定型的な作業が自動化されたとしても、「専門性をもって検証し、最終的な説明責任を担う」というエンジニアの役割は、残り続けると思います。

本山
それも、技術を理解していないとできないですよね。何も知らない状態では良し悪しを判断できないですし、ライブラリの選び方ひとつにも理由があるんです。AIに正しく指示を渡して、アウトプットを正しく検証するためのエンジニアリング能力は、むしろより必要になっている。「部下を育てて、その責任は自分で取る」という感覚に近いと思います。

浦田
審美眼、つまり専門知識や目的に基づく評価基準を持っていなければ、AIのアウトプットを適切に評価することはできません。AIによってアウトプットのハードルが下がるほど、そのアウトプットを見極めるための知識や経験、そして最終判断を担う人の役割は、むしろ重要になると思います。

司会
その審美眼は、これまでは自分で手を動かして鍛えるものだったと思います。手を動かす部分がAIに置き換わっていく中で、これからの若手社会人はどのようにその審美眼を育てていけばよいのでしょうか?

浦田
まず、「自分は何をやりたいのか、なぜそれをやりたいのか」を、自分の言葉で持つことです。そのうえで技術については、AIも活用しながら、やはり自分で手を動かして身につけていく必要があります。
現代はAIを質問相手や学習の補助として使えるため、新しい分野を学び始めるハードルは以前より下がっています。大切なのは、AIの回答を鵜呑みにせず、一次情報や実際の挙動と照らして確かめることです。自分なりの仮説を持ってAIを使い、複数の出力を比べて、「なぜ良いのか」「なぜ良くないのか」を説明する。その往復で、審美眼は育っていくと思います。

本山
ここは誰もが手探りで明確な正解がまだない部分だと思いますが、私が最近とくに意識しているのは「主体性」です。AI時代に必要なのは、土台となるマインドセットと、その上に乗るスキルの両方。そして、その両方を主体的に駆動させ続けることだと思っています。

後編へ続きます!

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www.brainpad.co.jp
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