天文学からビジネスへ。研究で培った力がデータサイエンティストのキャリアを拓く

天体物理学(天文学)とデータサイエンス。一見すると関わりの薄い分野のように思われるかもしれません。しかし、観測データを分析して示唆を得る天文学の研究プロセスは、実はビジネスでのデータ活用による課題解決と多くの共通点を持っています。実際に、ブレインパッドでは天文学出身のデータサイエンティストが多く働いており、過去には天文学出身データサイエンティストの交流イベント*も開催しています。
今回は、天文学出身のデータサイエンティスト二人が、なぜこのキャリアを選んだのか、そして研究で培ったスキルがビジネスでどう活かされているかを語ります。

※交流イベント概要はこちらを参照ください。


宇宙の探求からデータ活用へ、なぜブレインパッドのデータサイエンティストに進んだのか

――まず、データサイエンティストという職種を知ったきっかけから教えていただけますか?

杉森
私は、就職を考え始めるまでデータサイエンティストという職業を全く知りませんでした。就活中に修士・博士向けの就職支援サービスから紹介された職種の一つにデータサイエンティストがあり、話を聞いていくうちに「これは面白そうだ」と感じたのが最初のきっかけです。
元々、これまでの経験を少しでも活かせる職業に就きたいと考えていました。データサイエンティストについて調べていく中で、「この職種は研究で培ってきたデータ分析の経験を活かして社会や誰かの役に立てるのでは」と感じ、一気に興味が湧きました。

河合
私は、研究で経験した「データ分析やそこから導き出される示唆をまとめていく過程」がとにかく楽しいと感じていました。この感覚が就活軸に大きく影響していて、「データ分析を学術の世界だけでなく『社会』に対して実施してみたい」と考えて興味を持ったのがデータサイエンティストという職種でした。

――数あるデータサイエンス企業の中で、ブレインパッドを選んだ理由は何でしょうか?

杉森
私はブレインパッドの会社説明会で、高橋さん(ブレインパッド創業者。当時の代表取締役社長)が「データ活用で社会に貢献していく」というビジョンを熱く語っているのを聞いて興味を持ちました。
特に「将来直面する日本の人口減少などの大きな課題に対して、データを使って企業の無駄をなくし生産性を高めることが一つのアプローチになる」というお話が印象に残っています。
経営者が具体的なアクションを語る姿勢や、実務的にもデータ分析に留まらず具体的な施策の提案からその後の効果測定までを一貫して支援している姿を知り、「この会社なら本当に社会や誰かの役に立てそう」と感じて入社を決めました。

河合
私も会社説明会がきっかけです。「ブレインパッドはビジネス課題を解くことが主目的でデータ分析はその手段だ」と説明している姿を見て、「自分のやりたいことがこの会社でなら挑戦できそうだ」と感じました。
さらに、社内勉強会が活発であることや、2004年創業以来データ活用支援をし続けてきた実績があるので、「データ活用でビジネス課題を解決するノウハウが溜まっていそうだ」と感じて、ファーストキャリアとしてこの会社で働きたいと思い入社を決めました。


天文学を通しての学びを会社でも活かせているのか

――お二人が学生時代に天文学の道に進んだ理由と、その研究内容を教えてください。

杉森
中学生の頃、理科の先生が部分日食の観望会や天文台に連れて行ってくれたことがきっかけです。それからどんどん興味が湧き、もっと遠くの宇宙を見たいと考え、天文学に進みました。
学部生の頃は、宇宙の加速膨張を新しい望遠鏡で捉えるために「どんな性能が必要か?」をシミュレーションで研究していました。大学院では、銀河の星形成の歴史を探る研究に取り組みました。世界中の望遠鏡で集められた、最近の宇宙から昔の宇宙までを網羅した、膨大な銀河の波長ごとの光の強さを分析し、物理量を推定していく作業は、宇宙の歴史に触れているようで楽しかったです。

河合
私が天文に興味を持ったのは学部3年の研究室選びの頃です。もともと実験を通して「物理学の新しい知見を切り拓く経験がしたい」と思っており、宇宙からの光を観測して物理現象を解明する天文学が楽しそうに感じたので挑戦しました。
研究テーマは、星表面で生じる爆発現象「フレア」の発生機構を探ることでした。フレア研究は太陽観測が一般的ですが、私の所属する研究室では太陽以外の恒星で生じる太陽より1万倍以上エネルギーの大きい現象がターゲットでした。
このフレアは発生が稀なため、大学屋上に観測装置を自作して、冬季はほぼ毎日観測してデータを集めていました。観測に多くの時間がかかるため、その後の画像・時系列の分析を効率化するプログラムを自作して、日々研究を進めていました。
装置・分析プログラム開発だけでなく物理現象の解明にも取り組んでいて、地上望遠鏡と宇宙望遠鏡とで同時観測したフレアのエネルギーや減衰時間についての相関を調べ、学会発表や論文投稿によって成果を発信していました(Kawai et al. 2022 https://arxiv.org/abs/2307.01469)。

――当時の天文学での学びは今の仕事でどのように活かせているでしょうか?

河合
仕事を経験していく中で気づいたのですが、データから意味のある結果を導き出してわかりやすく伝えるまでの一連のプロセスは、データサイエンスと研究で似ていると感じます。
私たちのような実験系の研究では、実験装置(望遠鏡)の利用時間確保が必要なため、データ取得までの道のりが長いです。
望遠鏡利用のために観測提案を作成する必要があるのですが、この提案作成が大変で、「その天体を観測するサイエンスの理由は何か」、「この望遠鏡での観測が必要な理由は何か」、「どのような精度(時間分解能、波長分解能、空間分解能)が必要か」、をわかりやすく記載しなければいけません。
そのためにはサイエンスの背景も深く理解する必要がありますし、観測装置についても深く理解する必要があり、準備が大変です。提案が棄却されては研究が進まないため、必死になって作成した思い出がありますね(笑)。
データサイエンスも同様で、ただ目の前のデータを分析するのではなく、解くべきビジネス課題の定義や、利用データに応じた分析手法を洗い出して最良の方法を設計して、ようやく分析に着手します。

研究の進め方
(例:連星フレアの幾何解明)
データサイエンスの進め方
(例:マーケティング部署支援)
1. 課題  近接連星で生じるフレアは連星間で共有する磁場に沿って生じるか? 購入促進目的の販促チラシ1万枚は誰に郵送すべきか?
2. 設計  フレアの発生位置が連星間の内・外向き面かの特定が必要
発生が稀なフレア観測のために宇宙望遠鏡と地上望遠鏡の長期利用が必要
郵送しなくても購入する人ではなく、郵送することで購入しやすくなる人を知りたい
施策に反応しやすい顧客の予測モデル構成や必要なデータとその期間を設計
3. 収集  観測してデータ収集 会員情報や過去購買記録、過去施策結果を収集して統合
4. 分析  画像・時系列分析からフレア発生タイミングを特定
観測結果からフレア発生源の位置を推定
機械学習モデルを作成して予測スコアを算出
予測スコアが高い顧客の特徴を分析
5. 提言  推定した幾何情報から連星間フレアは連星間を繋ぐ磁場に沿った現象かを考察し、博士論文として投稿 予測スコアから郵送先候補10,000名を選定し、施策反応率が高い顧客の特徴も考察して報告

研究で培ったプログラミングスキルや統計知識はもちろんですが、それ以上に課題に対して論理的に取り組む経験そのものが、仕事に活きていると実感しています。

杉森
河合さんのいうとおりでデータ分析の前のビジネス課題の特定や分析設計は研究と似たものを感じますし、いかに深くデータの扱いを考えられるかはこれまでの経験が活かせていると思います。
また、研究で培った経験だけでなくブレインパッドの企業文化も私たちの考える姿勢を受け入れてくれる土壌があると感じます。単にデータを処理するだけでなく、「なぜそのデータを使うのか」「その結果から何が言えるのか」を深く突き詰めることを推奨してくれるので、研究で培った「問いを深める」姿勢がそのまま活かせていると感じます。

知るを力に、ビジネスの世界での挑戦

――専門分野が異なるビジネスの世界に飛び込む中で、苦労されたことはありましたか?

杉森
特に苦労したのは、分析手法の伝え方です。 ブレインパッドでは、分析の結果だけでなく「どのようなプロセスでその結論に至ったか」をクライアントへ丁寧に説明します。しかし、クライアントの方々は必ずしもデータ分析の専門家ではありません。
学会発表では、共通言語を持つ相手に報告するので、数式や手法の名前を出すだけで話が通じます。しかしビジネスでは「なぜこの手法が最適なのか」「ビジネス課題に対してどう機能するのか」を専門用語を使わずに論理的に説明し、納得していただく必要があります。そのため、手法の仕組みを根本から理解していないと、平易な言葉に置き換えた際に説明のロジックにほころびが生じる可能性があります。自分の理解の甘さを突きつけられる場面が多く、最初はかなり苦戦しました。

河合
確かに研究と違いますよね。私も「納得感のある言葉」で言語化することの難しさを日々感じています。また、私の場合「最新技術の勉強」についても、ビジネス特有のスピード感に最初は圧倒されました。天文学でも新しい知見は常に追いますが、現在のAIやデータサイエンスの領域、特にLLM(大規模言語モデル)などの進化は非常に速いです。

――変化の激しい業界ですが、研究での経験は活きているのでしょうか?

杉森
研究では手法や数式に不明点があればその手法が紹介された論文を読み、さらにその引用論文を孫引きして読むことで自主的に理解を深めていました。この経験がまさに仕事でも活きています。
私はAIエージェント開発のプロジェクトに携わっており、プロジェクト内で使用するツール「Dify*」や進歩の早いLLMの理解に日々追われていますが、研究での経験を活かして新技術の情報源や公式ドキュメントを読み漁り、勉強して技術に追いつく努力をしています。研究を経験していなかった自分と比べたら、とてもスムーズに対応できているのではないかと思っています。
※Difyとは、LLMアプリ開発プラットフォームのこと。

河合
そうですね。研究で培った「わからないことを、わかるまで調べ抜く」という粘り強さは、新しい技術を習得する際の土台になっています。未知の領域に対して、自分なりに仮説を立てて理解していくプロセスそのものは、天文学もビジネスも共通しています。その「知る」過程を楽しめる気質は、データサイエンティストという職種において大きな武器になると実感しています。
またブレインパッドでは社内勉強会も活発で、周囲の優秀なデータサイエンティストから刺激を受け続けられる環境も、学びの楽しさを倍増させてくれる気がします。


天文学を学ぶ学生へ

――最後に、天文学を学ぶ学生へのメッセージをお願いします。

杉森
将来的に企業への就職を考えているとしても、大学や大学院では好きなことをとことん突き詰めて良いと思います。その上で、もし企業でのキャリアを考えるときが来たらデータサイエンティストという道も皆さんのスキルを活かせる一つの選択肢だと思います。
大学や大学院で専門的な研究に打ち込んでいると、「自分は専門的な研究ばかりしていて、はたして就職できるのだろうか?」「就職して、うまくやっていけるのだろうか?」と不安になることもあるかもしれません。私も就職を考えたとき、とても不安でした。
でも、自分の経験を活かせる場所はきっとあります。私の周りの学生たちも、それぞれの専門性を武器にさまざまな企業へ就職し、今では自分らしく活躍しているので、過度に心配しすぎる必要はないと思います。
特に「数学に抵抗がないこと」「研究で培った論理的思考力」はデータサイエンティストにはもってこいの能力です。そして何よりもブレインパッドには「研究の話を面白がって聞いてくれる人」がたくさんいます。この研究で培った力を重宝してくれる環境は、本当に心強いものだと感じています。

河合
杉森さんのいう通り、好きなことに没頭する経験は、必ず将来の糧になります。だからこそ、今、目の前にある学問や研究に全力で取り組んで欲しいです。
天文学を通して経験する未知の現象を解き明かそうとする探求心は、データサイエンティストとしてあらゆるビジネス課題を解決するための強力な武器になります。
皆さんのその情熱と探求心が、未来のビジネスを、ひいては社会をより良いものへと変えていくと信じています。ぜひ、ブレインパッドで一緒に、データ活用の未来を切り拓いていきましょう。

ブレインパッドでは新卒採用・中途採用共にまだまだ仲間を募集しています。
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www.brainpad.co.jp
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