マーケティング分野では「DMP(*1)」を用いた顧客とのコミュニケーション基盤統合の動きが強まる中、ECサイトや製品・企業サイトでの活用事例が多くの利用企業から発信されるようになってきました。一方で、メディアでのDMP活用、データ活用事例は殆ど見られません。
しかし、コンテンツ・マーケティング(*2)の重要性が高まり、これまでメディアを持たなかった企業においても、自社メディアの構築による顧客への情報発信が活発化してきており、メディアに蓄積されるデータをどのように顧客とのコミュニケーションに活用するかは、従来のメディア企業だけの課題ではなくなってきています。
そこで今回は、弊社が提供するプライベートDMP「Rtoaster」を徹底的に活用いただいている株式会社ダイヤモンド社(以下、ダイヤモンド社)のみなさまに、メディアの課題と「ダイヤモンド・オンライン」におけるデータ活用事例についてお伺いしましたので、その一端をご紹介いたします。
データ活用・DMP検討の背景や、いまのメディアの課題とは?
-ダイヤモンド社では、「ダイヤモンド・オンライン」をはじめとしたメディアで弊社のRtoasterを導入いただいていますが、どのような背景からDMPやデータ活用が必要と思われたのでしょうか?
ダイヤモンド社真中氏(以下、真中氏)
DMPを検討し始めた背景として、これまでのメディアはコンテンツプロバイダとして、良質なコンテンツを提供することに特に注力してきました。
メディアとして、良いコンテンツをユーザーに届ける、ということは当然注力すべきポイントで、今後も絶対に手を抜いてはいけないのですが、デジタル化が進み情報の流通経路が変わる中、強いコンテンツのプロダクト・アウト偏重だけではなく、もう少しユーザー(読者)の方を向くことも必要だと思っています。
ユーザーの方を向く際、対面で読者と向き合うわけではないので、リアルな反応はなかなか得られない。どのようなコンテンツに対して、どのような読者が反応し、共感や態度変容をしてくれるのかを知るためには、データを蓄積・分析し、それを実際に何らかのアクションにつなげて反応を見ていくことが重要だと考え、データ活用やDMPについての検討をすることにしました。
-なるほど。弊社はECサイトなど、実際に"モノ"を売るサイトを運営される企業のご支援をすることが多いのですが、そこでも、デジタル化によりユーザーと対面で接触する機会が減少する中、ユーザーのことを知るために、いかにデータを活用するか?というポイントを課題として挙げられるお客様が多く、これはメディアも同様なのですね。
真中氏
はい、そう思います。
私は以前、事業会社で広告主としてメディアと関わっていたのですが、どちらにも共通する課題は、しっかりと自社のユーザーを知り、コミュニケーションをしていくことです。そのためには、経験則に基づく勘も当然重要ですが、ユーザーの内面をデータから見出すことの重要性も高まってきていると思います。
-ECでは以前からデータ活用をして施策を行うのが一般的ですが、メディアの場合、データ活用の重要性を社内で説き、周りを巻き込んで進めていくのは大変そうに思えます。社内でデータ活用のプロジェクト推進をしていく上で、一番わかりやすい一手とはどのようなものなのでしょうか?
真中氏
やはり、メディアの収益の中で広告が占める割合は大きく、データ活用をすることで、広告収益をさらに上げられることを社内に示してあげるのが、メディアで長年経験を積んだ人に対してもわかりやすいと思います。
そう考えたことから、ダイヤモンド・オンラインでのDMP導入にあたっても、オンライン広告の収益をあげていくことをメインの目的にあげ、社内でDMP導入を説得していきました。実際に最初に行ったのも、新たな広告メニューの構築でした。
-我々もDMPを活用して広告メニューを作るというのは、あまり取り組む機会がなかったのでチャレンジのしがいがあるな、と思いました。
-では、ここからは具体的にどのような広告メニューを提供しているのか、改めてお聞かせいただけますか?
広告主のニーズを満たすためには、広告だけでは足りない?!
-メディアにおける広告は、まだまだデータ活用が充分にされていないのが現状なのでしょうか?
真中氏
はい、個人的な意見ですがまだまだ本格的にやられているところは少ないかな、と。
多くのメディアは、データ活用というより、ネットワークに広告枠を流し、純広告(*3)の占める割合が減っているというのが実情だと思います。
在庫を抱えても1円にもならないのでネットワーク広告(*4)も重要ですが、それはネットワークを束ねる側のエコシステムなので、メディア独自のエコシステム内での収益向上もしていかなければいけないし、できることもたくさんあると思っています。
方法はまだまだ模索中ですが、要素としてデータは不可欠だと考えています。
-では、メディアとして広告主ニーズを満たし、さらに収益向上をしていくためには、どのようなことが必要なのでしょうか。
真中氏
結論からいうと、枠売りの広告だけではなかなか厳しい世界になると思っています。
メディアの広告と言うと、バナー広告や記事広告、メルマガ内での広告というイメージが強いですが、それだけではダメで、もっと広告主のビジネスに踏み込めるような提案が必要だと思っています。
例えば、これまでの純広告では、ある面に広告を貼り、広告期間終了後にレポートを出す、というのが一般的でしたが、DSP(*5)運用をしている企業などはPDCAを回しながら出稿期間内に改善策を打つ、という方法にすでに慣れています。
そうなると、掲載期間終了後のレポートでは遅く、かつレポートも仮説検証ができるよう様々な切り口と要素とでレポーティングをすることが必要になります。
さらに、それぞれのメディアが持つ読者層も、もう少し細分化してあげて、この層にはこの訴求、違う層にはまた別の訴求、といったコンサルテーションまでしてあげること、そのために読者をより深く知り、広告主にマッチしたターゲットを探るための情報を読者から集めておくことが必要です。
-広告主が狙いたいターゲットをメディアから提案できるようにするためにも、データが必要になってくるのですね。
真中氏
そうです。
-いま、実際の新たな広告メニューとして、どのようなサービスを提供されているのでしょうか?
真中氏
まだまだテスト段階という位置づけなので、広く提供しているわけではないのですが、ある求人系のサイトをお持ちの広告主には、大きく3つのサービスを提供しています。
1つ目が、精緻に分類したターゲットへのディスプレイ広告(*6)。これはイメージがしやすいですよね。
2つ目が、広告主が知りたい情報を読者から収集するサービス。
3つ目が、収集した情報をベースに、記事作成、コンテンツ提供をするサービスです。
-それぞれどのようなサービスなのでしょうか。
真中氏
まずお伝えしたいのは、それぞれ独立したサービスではなく、一連のサービスが1つのメニューとして機能しています。
広告主の目的に対して、すでにそのニーズを持っている人にはディスプレイ広告を出してあげればよいのですが、ニーズが潜在的な読者は、単純にディスプレイ広告を出されても反応してくれませんよね。そういった読者に対しては、ニーズを呼び起こすようなコミュニケーションが必須になってきます。このために必要になるのが、2つ目のサービスで行っている「ユーザーのことを知る」、というアプローチです。
具体的には、サイトに訪れたユーザーに対して、アンケートを取得しています。これは闇雲に質問を投げかけているのではなく、広告主が求めるゴール(自社サービス利用)に対して、いまユーザーがどの地点にいるのか、またなぜその地点にいるのかを質問として投げかけています。
実際に行われたアンケート画面。 アンケートにより顧客のデータを取得するとともに、
結果に基づく記事を作成するなど、施策に活用している。
ダイヤモンド・オンラインでは、記事作成のために職場環境や給与、仕事内容についてのアンケートなどを実施しています。これは、記事作成のためだけではなく、特定テーマにおける読者の趣向性を逆算するための質問だったりもします。ここで得られたユーザーデータを集計し、広告側のデータと掛け合わせることで何をきっかけにして広告主のサービスへの興味を呼び起こすことができるか、というところまで踏み込んだ提案ができるようになります。
その上で提供しているのが、ニーズを呼び起こすための記事の提供です。ディスプレイ広告だけでは伝えきれない情報を、メディアという場所を通して記事という手段で伝えてあげています。
さらに、ディスプレイ広告もアンケート結果毎で訴求を変える、ということも行っています。ECサイトでは顧客育成が重要になってきますが、これをメディア上で行ってあげて、育成された段階で初めて広告主のサービスに送客してあげる、というストーリーになっています。そうすることではじめて、広告KPIでいうところの、CTR、CVR、CPA(*7)を向上させることができますし、それはネットワーク広告にはできない、メディアならではの強みだと思っています。
広告主さんからは、この一連のメニューによって、広告KPI だけでない、それ以上の価値を実感していると、言っていただいています。
-もはやメディアの枠を超えて、広告主のビジネスパートナーとして踏み込んだ提案をされているのですね。ただ、それだけの労力をかけるのは大変なのではないでしょうか。
真中氏
はい、大変です(笑)。
ただし、広告主とパートナーとしてお付き合いをしていくという長期的な観点では、メディアはここまで踏み込んでいかないと広告価値を出していくのは厳しいのかもしれません。現状ネット広告のマネタイズは量と質の観点で考えると、どうしても量に重きを置いた方が効率的です。そのため質に重きを置いた時、効率はどうしても悪くなってしまいます。今は質に重きを置きながら量とのバランス、効率化をどのように行って行くか?が大きな課題です。
それだけの価値を提供するために、メディアとしての質も、そこで蓄積されるデータの質も、広告を提案する人の質も、すべて向上させていくことが、いま必要とされることと、私は考えています。
もちろんすべてを人力でやるのは難しい、そこでDMPといったツールが重要になってくるわけです。メディアが求めるニーズに対して、機能を満たしてくれるのはもちろん、それに付き合ってくれる”人”がツール提供会社の中にいるかも重要で、それがあったのがブレインパッドでした。
-ありがとうございます!ブレインパッドとしても様々なチャレンジをさせていただいているので、今後はチャレンジの中で見えてきた課題も解決できるよう、プロダクトも、人も磨いて行きたいと思っています。
データを通じた紙とデジタルの融合、メディアとしての今後の展望とは?!
-では最後に、今後どのような取り組みをされようとしているのか、教えていただけますでしょうか。
真中氏
これから目指すのは、メディアとしてオンライン、オフライン問わずデータをより活用していけるような組織やインフラの整備です。
データ活用は絶対に不可欠だと思っていますし、今後より重要になっていきます。現在も自然言語処理エンジンやメール配信ツールとの連携を行ってデータ活用をしていますが、さらに活用を推進していくためには、ツールの導入だけでなく、それが行いやすい状態にサービスを持っていかないといけない。
今後はメディアがデータを最大限活用できるような形を目指し、最終的にはデジタルだけでなく、紙媒体にもフィードバックができるような方法を模索していきたいと思っています。
-紙媒体とデジタルがデータを通じて融合されたとき、メディアはどのような姿になっているか、本当に楽しみですね。今日は貴重なお話をお聞かせいただき、本当にありがとうございました!
(文責:マーケティングプラットフォーム本部マーケティングサービス部)
(*1)DMP(Data Management Platform)とは、広告主・メディア・ECサイトなどが保有するさまざまな大量データを収集・分析し、主にマーケティング用途での利用・活用を可能にするデータ基盤のこと。
(*2)情報を求めているユーザーに対して、適切なメディアを使い、適切な内容のコンテンツを発信すること。
(*3)広告の形態の一つで、広告主が媒体の広告枠を買い取り、広告主側で制作された広告を掲載するものを指す。
(*4)インターネット広告のうち、広告配信会社が複数の広告掲載媒体に対して広告を配信する「アドネットワーク」を利用して掲載される広告のこと。
(*5)DSP(Demand-Side Platform)とは、オンライン広告において、広告主(購入者)側の広告効果の最大化を支援するツールのこと。
(*6)広告のうち、主に写真や画像、ロゴなどを中心とした視覚的要素の強い広告の総称。
(*7)
CTR:インターネット広告において表示された広告がどれだけクリックされたかを表す値のこと。
CVR:インターネット広告の成果を表す指標の一種で、Webサイトを訪れたユーザーのうち実際に商取引に至ったユーザーの割合のこと。
CPA:1件のコンバージョンを獲得するのにかかった広告コスト(成果単価)のこと。